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現代ファンタジー

キッズ・レンタル1(全4話)

   

 風戸 改は結婚をした。永い人生において、なかなか実らない夢に破れては新たしい生き甲斐にすがりついて生きてきた。作曲家という切なる願望も自画自賛に破れて多くの才能者を見て愕然とした。

 そこで生き方を変えて出版社に勤める。音楽の記事を書いているが、それでも物足りなさを感じていた。それはまるで自分が透けているのではないかと吐露してしまう。

 自暴自棄になっていたとき、一人の女性と出逢う。改にとって運命が走る瞬間でもあった──

 

 風戸かざと かいは、孤独な人生とさよならをした。

「三十八歳になっちまったな──」

 自身を見つめ二十年もの一人暮らしを終え、恋人の吹田ふきた 名響なびきとプロポーズを機に同棲生活をすることになった。

 改は誕生した赤ん坊が成人するまでの期間をひとりだけの部屋で寂しくも虚しくもなく、かといって幸福に包まれた暮らしをしていたわけではないが、孤独だったわけではない。

 不幸と思ったためしはない。ただより良い暮らしと幸福を名響が導いてくれた。

 名響の存在が改を孤独にすることはなく人間とは家族を持ってこそ輪というものを知る。名響から教わったような気がしてならない。

 青い空を見上げていると、風に乗せて彼女の名前が改の心にまで響きとどくように肌で感じていた。

 田舎者の改はそれは地味で目立ちもしない普通の少年だった。都会にさまざまな憧れを抱いて上京をこころざしていた。

 めざしている夢があるからこそ、東京に決めた。大学で精いっぱい学び、夢に羽ばたくためのいろはを学ぶために人生の岐路を踏み出した。

 音楽大学を入学し、改は一瞬のうちに膝から崩れ落ちた。地についた手のひらは人生の冷たさをその身へ侵食していく。

 夢や強い気持ちだけでは超えられない壁があることを知った。それは才能だった。自分以上の有能の者を目の前にして、しかもそれは一人や二人ではなかった。

 音楽家としての成功する才能がないことを身に沁みるほどに打ちのめされた。

“作曲家”なんて無理かもしれない。

 中学でバンドを組んでエレキギターを担当するも田舎で活動することはまるでおままごと。本腰いれたのは高校生のときに部活動で軽音楽部に入部した。

 かなりの腕前であったが熱意が低かった。改はこの部活動の時間もまたおままごとの延長であると嘆きたくなっていた。強いこころざしを胸に宿しながら上京への決意を固めた。

 東京ミュージック・ユニバーサル音楽院の音楽総合学科の作曲家部門に入学した。四年間勉強して迎えた将来性は希望しかなかった。しかしものの数週間ですぐれた才覚を目の当たりにして改は膝をついたのだった。

 まるで額に烙印の文字を押されたように、不規則なアスファルトの一個一個の押し潰された石が今の自分と重ねていた。この中にダイヤモンドの原石は、ない。

「知らないことばかりだ…、それがおれの欠落したものか──」

 痛感の日々をどう生きればいいのかわからなくなっていた。田舎者の改は周囲の同年代より見劣りしていたが髪型を美容師に整えてもらったり、服装を総替えしたことで都会的になっていった。

 もともとブルージーンズのプレーンタイプしかなく、Tシャツにネルシャツくらいしか持っていなかった。ファッションの情報には事欠かなかった。

 都会にいるおかげで流行のファッションに手が伸びやすく休日に二、三時間ほどファッションのための買い物にあてるだけでセンスのいい若者として周囲から好感をもたせることができた。

 おかげで大学に入って一年目の夏までにはそれなりの出会いにも恵まれた。一人の女性と交際をはじめるきっかけは東京の暮らしに慣れたからだろう。

 作曲家になりたいという願いも課題に追われるだけの毎日に、成果は見いだせなかった。

 学年で優秀でもなければ優れた作品を生み出す才能も開花しなかった。凡人であるとわかったことであきらめはできていた。

 楽しい日々を彼女や友人たちと過ごすだけの日々の四年間となり、どうやら改は主役になれるタイプではない。そんな自覚を背負いながら大学を卒業する。

 卒業と同時に彼女とも別れてしまった。とても楽しい日々を過ごすことができてよかったと思っている。良き思い出を彼女はプレゼントしてくれた。

 それで十分だった。

 

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