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現代ファンタジー

キッズ・レンタル1(全4話)

   

「ひとは我慢していやな仕事を自分自身に無理強いして、その場所で長く勤めていかなければならない。一度はじまったレースを途中でやめることはできない。それが選手の意思、意欲、活力となり社会の一部となってこの世界の軸をまわしている」

 改は失ったあとに気づいた。彼女は職場に残留を希望した。おのずと彼女とはそれっきりになってしまった。

 軽薄な女は会社のなかで自慢や違いというものをみせつけたいがために改と交際したのだろう。

 自慢の彼氏、ほかの彼氏とは違うタイプでいい。それが目当てで装飾していることで自慢になる。この輪となる連鎖が彼女なりの恋愛ステータスなのだろう。

 そこそこ改は会社の女子からは人気があったときく。彼女もどうやら第一印象で気に入っていたようだがキープする程度で職場にいなくなったら視線は移る。視界に入るのは次の獲物である。

 合併となった会社は他社の人材と共同で仕事をすることになるが、彼女はそこの年上の男性に色目を使っていたとのちに同僚から連絡をうけた。

 改は好きにさせればいいとメールで返信した。

 彼女とは音信不通となり自然消滅した。軽薄な女との交際の顛末なんてものは自然消滅が関の山だろう。

 しかし彼女は現実的で堅実なひとだった。改よりも利己的で毎月の安定と不安感のない暮らしを望んでいた。だから精いっぱいの努力で男性に尽くしていた。媚びるような仕草も計算ではあるが未来を見据えての精いっぱいの愛情であった。

 誰よりも幸福を望んでいた。贅沢にも彼女の肉感や威圧的な存在感に改は疎ましく思っていたときがある。その嫌悪感が自分の傲慢な思考が彼女への軽薄な感情に、中途半端な愛情でこたえていたようだ。すべての代償となって跳ね返ってきたのだろう。

「これでいい。内心ほっとした」

 一人になった改は夢の投資に気兼ねなく時間を費やせるようになった。

 彼女のことは思い出さないようにしている。名前や顔や性格は鮮明に思い出そうとおもえば思い出せる。しかしたいした思い出はない。

 すべてをなげだした人生と夢にふたたび挑んだがこの数年生きた心地はなかった。結局、作曲家としても暮らしも不安定で、貯金も尽きかけどうにもならなかった。

 収入の足しになればとおもい小さな出版社の事務作業の仕事に就いた。アンケート調査の仕分けやデータ情報を入力したり雑用的なものをしていた。どれもこれも簡単であるが最低限の暮らしができればいい。その一心で就いていた。

「夢を失った人間に生きる資格はないのだろう。もうなにもできない気がする…」

 自暴自棄に陥った改だったがあるヒントを得た。

 同僚の女性と改はよく会話をしていた。そのひとは読書好きでかなり詳しかった。改より五つも年下のちょっと不思議な女の子だった。ファッションセンスは奇抜だった。色彩鮮やかで柄物が多い服装で、まるで派手な魔法使いだった。

「読書はいいよ。発想力を磨けていろんな物語のなかの登場人物のようになれるから」

 改は不思議とその言葉が耳に残っていた。胸というより脳に直撃した気分だった。

 作曲も発想力から曲が生まれる。それは物語があるものだ。同じこと。なら自分にも書けるかもしれない。

「おれ、小説家になってみようかな」

 今の仕事なら作家の勉強にこと欠かないだけの時間はある。就業時間が決められている。残業もとくにない。定時にはかならずあがれるため、自宅に帰れば執筆ができる。

「夢のための生活感を一変させるぞ、今度こそ──」

 

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キッズ・レンタル 第1話第2話第3話第4話

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