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現代ファンタジー

キッズ・レンタル2(全4話)

   

 吹田ふきた 名響なびき、東京都武蔵野市出身、高校は女子高で美術部だった。コンクールで大賞をとったことで美術大学への道をめざした。

 美術大学在学中もそうだったが卒業後も成果をだせなかった。高校のときの賞はたまたまだったのだろう。たしかにそこまで優れているような作品ではなかったかもしれない。それでもあきらめずに一年間、絵画を描きつづけることをやめなかった。

「自分にはこれしかない。絵を捨てたらやることない」

 名響は両親にむかって頼んでいた。両親はできたら家業を継いでほしいと願っていた。

 両親は美術館の館長をしていた。母親もそこで手伝いをしていた。なかなかできる仕事ではない。だから後継ぎが必要だった。娘の眼は作品の良し悪しを判断できる目利きであった。本物と偽物の見きわめができるのだ。子どものころからの才能だった。おそらく父親の血がそうさせているのだろう。

 就職浪人だった名響は美術館で受付の仕事を手伝っていた。母親はうれしそうにしていた。娘と仕事をしていること、父親もこのまま継いでもらえればなによりだと切望していた。

 絵描きになることが名響の夢だとしても、家族でひとつの仕事をすることの方がなにより安堵につき未来があることであると両親は望んでいる。その願いもあってか名響は徐々に筆をにぎる時間が減っていった。夢をあきらめかけていた。

 絵画の才能がなかったと認めるのも、コンクールに提出した作品をコテンパンに批評をくらったことが起因となっている。

 大学生で美術の知識を身につけても作品にイメージどおり表現しきれていないことが見抜かれていた。さすが美術界の先生方は見る眼がたしかだった。実のところ名響も仕上がった自身の作品に納得がいっていなかった。そういう眼力を持っていたが、スキルが追いついていなかった。

 描けば描くほどもどかしく現実を呪っていた。

「イメージどおり描けない…、なんで…」

 憤りをとおりこしてもはや感情が欠如してしまったかのように呆然としていた。

 両親の願いのままに美術館で就労することになった。淡々と過ごす日々にいつしか心の中では別の感情が芽生えはじめていた。

 美術館とはいろんな人が訪れる。そしてある一つのきっかけのような場でもある。

「デートをしているカップルをみると、ちょっと微笑ましくなるな」

 名響はこれまで育っていなかった恋心の幹に水を与えようと気がむきはじめていた。二十四歳のときだった。

「恋がしたい」

 絵に没頭していた青春時代に、すっかりそういう異性への感情が芽生えるのが遅れていた。一度火がつくと爆発的に成長していく恋心。誰でもいいわけではないが自分がどういう相手を好きになるのかさえわからない。絵とおなじに考えることをきめた。良し悪しの見きわめる眼は人にもあらわれる。

 外見はもちろん、性格やその人柄や印象で判別する。絵画でも自分の眼を惹く優れた作品に直面すれば目利きで値踏みをして、納得いく交渉で落札できればそれは自分のもの、と感情が高ぶる。

 いつしか美術館の壁に掛けられている絵画ではなく、訪れる客を注視するようになった。自分にはどういう男性が相応しいか値踏みをしていた。

 

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キッズ・レンタル 第1話第2話第3話第4話

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