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現代ファンタジー

キッズ・レンタル2(全4話)

   

 名響の両親は娘の変化に気づいた。冷静で近づきにくい印象で美人な顔が硬直して微笑みがひとつもない。それがいまは表情も明るくなり笑顔があふれるようになった。

 受付嬢はそうでなければならない。館内の案内、作品の説明などを仏頂面で話されてもまったくおもしろくない。ほんらいの適性があったにもかかわらず、ひととはモチベーションがなくなると内面から閉じこもり感情の欠落から心をしまってしまう。鍵をかけてその鍵すら森に捨ててしまう。恋をしてからすべてが開放された。

 それもまた親としては心配ではある。相手の男がどんな人物かしりたくてしかたがない。もしかしたらこの美術館を手伝うようなことになったとき印象値はどのようなものに映るか、それはお客様あっての公共的な場であるから良質でなければならない。せめて紳士を振舞えるように鍛えると両親の小言が名響の聴覚を振るわせる。

「もう、わたしのプライベートまではいりこまないで…」

 絵画をあきらめた名響の心情は美術に携わっていることで多少は保たれていた。確実に心は恋という熱意で燃え上がっている。

 年の差カップルという今風の恋愛感が二人の交際を成立させている。名響がなぜ年上の男を選んだのかわからない。もしかすると、ほぼ初めての恋愛に発展する出会いを大切にしようとしたのかもしれない。

 それと同業者ではない直感が働いたのかもしれない。同業者で男性といえば父親しかしらない。言うならば同業者で認められるのは父だけだった。

 古美術商や画商はろくでもないと恋愛対象にはならないと一線を引いていた。金に糸目をつけない吐き気のする男たちが顧客や取引先になっていた。ぜんぜんちがう男を直感で恋に花を咲かせたのはまちがいない。名響の胸に電流が走ったのを感じたことが鑑定書のいらない証拠となる。

 いくつもの弊害があったが爆発した名響の恋心は両親すら黙らせた。
 二人は結婚を機に同居をはじめた。名響は改との愛の巣を西武新宿線に決めた。各駅でも10分はかからないところに住むことになった。

 2LDKの部屋を借りて互いに芸術分野に携わっているせいか、趣味趣向の相性がぴったりだった。

 男は音楽にまつわる小説家、女は絵画をたしなむ美術館の従業員として館長の後継者候補となっていた。

 文句もなくむしろ互いのセンスに納得するように首を立てに振る。これだけ相手を尊重できる男女もめずらしい。たいがい諍いしてけんか別れなんてのが相場だが、それを上回るほどの感性が育っている二人だった。

 見つめあったときからここまでシナリオが構築されていた。セリフを互いに記し合い、結婚まで描いているようだった。

 改も名響も恋に疎い性格だった。将来性を視野にいれ、イメージを膨らます。そこに見える光景は家族像が浮かんでいた。

 二人の恋愛感はすでに障害もなく突き進む許可を与えられていた。二人が望むままストーリーは終わることはない。

 そして名響は改のプロポーズを胸に刻む。

 名響は改という年上の男はこれほど夫としてふさわしい男性はいないと信じている。掴んで強く抱きしめていてほしい、名響の生涯の熱望だった。

「はい」

 女性の受け答えはいつどんな年代でもこのひと言だけでいい。それでじゅうぶんな誓約だと男も認めている。

「よかった。これで家族、いずれは“子ども”か」

 名響の両親の笑顔からにじみ出ている。世継ぎを孫に託そうということだろう。

「しつこいけど…」

「そうなの、しつこいの、うちの両親」

 彼女はくすっと意地悪く微笑んだ。

 

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