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現代ファンタジー

キッズ・レンタル2(全4話)

   

 改は名響と一緒の空間に居て不安を抱いていた。正式に結婚をしてからのことだった。急激に意識をあることに囚われてしまった。名響の性格がどれだけネガティブに変化してしまったのか。

 きっと焦ってからのことだろう。両親の期待、いつのまにかプレッシャーが化身となって名響の身体を押し潰そうとしていた。

 親元を離れた暮らしも、彼女にしてみたらみえない呪縛がとりまいているのだろう。

 互いに維芸術分野に携わって趣味趣向に共感を抱いていても、それだけで夫婦円満とはいかない。ささいな衝突くらいはある。年の差という縮まらない距離感に遠慮してしまう。小匙ほどのためらいが塵積もろうとしている。

「きみが欲しがっているものは、おれも欲しいよ。でもなかなかむずかしく考えすぎなんじゃないか。いい加減なおれを立てて支えて、なにかと我慢し耐えている。名響が背負い過ぎているように思うけど―」

 笑顔ひとつでわかったと返す名響の優しさが胸を打つ。不満もないその笑顔は逆に改を束縛していたことに気づいた。そのまっすぐな愛情の視線に監禁されている。逃れられない。GPS搭載のその瞳はどこからでも改を追跡可能といっている。

 名響は改に不満がないのか、それをしりたくてたまに諍いなどをしてしまうのをこらえていた。本心を聞きだすのがこれほどむずかしいとはおもってもみなかった。

「最近言葉数が少ないような気がするけど、どうかしたのか?」

 濃密な酸素が生活空間を支配する。

「改さんと一緒にいられるしあわせは本物よ。だからうれしいし、たのしい、でも──」

「でも?」

 癒しの空間に改はどっぷりと腰を据えていた。名響はそこで黙ったままテレビに目が移ってしまった。今季のドラマに見入っている。

 結婚してからずっと明るい未来を想像していた。発想力がたくましい二人の芸術分野で青春を磨いてきた。ならつぎはどうするのが夫婦であるのか。それを考えてから改と名響のあいだに禁句が生じた。

 そこでたまに漏らす名響のひと言を叶えたいとここ数ヶ月思い悩んでいた。

「この子役の子、かわいいね」

 テレビに釘づけになっていた名響はドラマか映画を観ていた。そしていつも家族シーンになると漏らす名響の言葉にドキッとさせられる。タブーに踏み込むのはいましかない。

「きみは家族を欲しがっているんだね」

 彼女は優しくそして意地悪そうな微笑を浮かべた。

 二人の絆を紡ぐものは、これからはそれがひつようとなる。それが改と名響のDNAを継いだ子どもであると。だが、改は不安を抱いていた。恐がっていた。

「ほんとうにおれが父親になれるだろうか」

 懸念はそこ一点に集約されている。名響はドラマが終わっても、テレビに集中して妙な芸人のギャグで笑っていた。

「変なひとたちよね、でもがんばってるひとたちだから笑っちゃう」

 改は彼女の採点基準がやはり目利きとして、ほかとは異なる視点でみているようだ。

 男として改は愛する女につたえなくてはならないことがある。確認という意味で。

「なぁ、ちょっといいかな」

 改は食卓に座るとテレビを観ている名響を向かいに座るよう促した。

「なによ、あらたまって」

 珈琲を淹れて、カップをふたつテーブルに置くとかしこまった仕草に緊張感が互いに伝わる。

「それでなに?」

 名響の顔を直視すると喉の奥で何かが塞ごうとしていた。咳払いをひとつして喉の奥でつまったものを吹き払った。

「名響は子どもが欲しいんだろ」

 わかっていることだった。だがタブーにしていた。これを言ってしまうと名響は女としての価値を見出せなくなると思ってしまうからだ。

「うん、でもできにくい体質だったんだよね。そのことを意識しているわけじゃないの。わたしは、なんというか、その──」

 口篭もる名響が空気の抜けた風船のようにしぼんでしまいそうだった。

 夫である自分が言わなければならない。だが、どういうわけか躊躇っている。だいじなことだというのはわかっているはずだ。

「言ってみてくれ、解決策があるはずだ」

 名響は視線をはずして両手でもっていたカップをテーブルに置いた。そして姿勢をただして眉の端が下がった表情で改にむけた口を開いた。

「わたし、子どもを育てる自身がない」

 名響の曇った表情はめずらしかった。いつもなら改の曇った心情を晴らす役目だというのに、いまはまぎれもなく逆になっている。

 改はこういうときどうすればいいのかわからなかった。

「気に病むことを恐れずに快晴の空を見上げていれば勝手に子どもなんて育っていくよ。道端に生えている草といっしょだ」

「くさ?」

 名響は目を丸くさせると驚いたように、突如プッと吹きだした。あまりにも極端な比喩に名響はさすがに笑っていた。その笑顔だけでも戻ってくれて改はほっとした。

「その辺の、お子さんをそういうふうに思ってみていると怒られるわよ」

「そうだな。ちがいない」

 

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キッズ・レンタル 第1話第2話第3話第4話

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