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現代ファンタジー

キッズ・レンタル2(全4話)

   

 インターネットのその掲示板から個人情報やプランなどを入力し申し込みができる仕組みになっていた。要望したいことはコメント欄もあり自分たちの夫婦の考えや暮らしぶりをこと細かく入力した。

 エントリー完了。

 そのあとで気づいた。これで家族の心がバラバラにでもなったら名響と離婚。そして改は孤独になる。

 もう一人でいるのはこりごりだ。ロボットではあるが子どもがいる暮らしを“試す”というのが過ちではないだろうか。

 突如、自問自答しているが答えはでなかった。せめて名響に相談してからでもよかったかもしれない。あれこれ思考をめぐらせているあいだに返信のメールが届いた。注文受付完了。そのあとすぐに二通目のメールが届く。

 どうやら受け付けた会社から、今後の流れのような通知が届いた。

 受け取りまでの流れが記載されている。本体受け取りの窓口は研究所とかいてある。ほかに詳細な説明が長々と明記されている。読破することは不可能だった。

 作家として読解力はあるほうだ。仕事でも文字の一文字一文字を咀嚼することをわすれていない。しかし、この凝り固まった単語や理系的な文言が頭に入ってこない。

 本文の最後に、ここまでお読みいただいて難読であれば現地での受講による説明会を設けております。振るってご応募ください。

「さきに明記しろよ、こういうことは…」

 小一時間、説明文に目をとおして眉間が痛くなっていた。迷わず改は応募した。現物の受け取りのさいでも受講できる。

 改は希望するにチェックをして返信した。取扱説明書を頭に入れるため窓口で要訳して聞かせてもらったほうがわかりやすい。

 これは改と名響の生涯の選択になるだいじなイベントだ。眉間の痛みなんて気にしてられない。

 都内にあるその研究所、自家用車で行ける距離でもあった。受け取り日は三ヶ月後。ずいぶん時間がかかるなと思うがとうぜんといえばとうぜんだろう。

 改は必要なものをあつめることに部屋の影に隠れ、名響をじっと覗き見ていた。いつどこで名響が隙をみせるか、そして奪取できるか思案していた。あるものを送らなければならない。

 父親と母親になる二人の特徴、行動、言動、趣味趣向、口癖だ。あとは写真。それと毛髪。いわゆるDNAとなるものだ。これを名響から奪う。

 普段は気にしないが、毛髪一本を入手することは日常では嫌悪すべきことだ。掃除掃除掃除のクリーンな空間で気持ちのいい暮らしをしているというのに、その一本を目を凝らしてみつけようとしている。

「たった一本なんだよ。エプロンにくっついてないかな、肩や背中でも…」

 期待は望めない。キッチンで名響が皿洗いしている背後に忍び寄りくまなく眼球を動かして背面に毛髪がないか目を見開いたが、こまめに洗濯し掃除の手も部屋の隅までいきとどいているのは、見事だ。

 とてもクリーンな空間で改は暮らしていることをあらためて知った。それはすべて名響の手腕によるものだ。

「なによ、背後で…」

 名響が気配にきづいて振り返った。

「いえ、なんでも…、紅茶でも飲もうかとおもって」

 冷蔵庫を開けてそれらしいもっともな理由でその場をしのいだ。

「こうなったら直接引っこ抜くしかない」

 改はこっそりとベッドの上で睡眠中の名響の毛髪を一本抜いた。抜いたときに名響はちょっとした痛みからか眠りながら頭を掻いてその痛みを散らしていた。

 寝室を出る改はリビングで資料を作成し毛髪をビニールのパックにいれた。それぞれの名前を書いたシールを貼った。スナップ写真もつけて、すべてをB5の茶封筒に入れて200円切手を事前に購入したのを貼り付けた。そのままこっそりと部屋を出てマンション近くのポストに投函した。

「任務完了だ」

 データをプログラムして自分たちの特徴や容姿を受け継ぐ子どもの作成に入るだけの時間を要するのが三ヶ月くらいかかる。待っているこの三ヶ月後が楽しみでしかたがない。

 寝室にもどると名響の熟睡した顔をのぞき一瞬脳裏をよぎった。家族団欒の光景が目蓋の裏に浮かぶ。

 改は夢のなかでそのムービーを観るだろう。

 その夜はぐっすりと眠った。
 
 

≪つづく≫

 

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