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現代ファンタジー

キッズ・レンタル3(全4話)

   

 無事に自宅に帰り日産LEAF・Gを駐車スペースに停めた。五分くらい車内にいた。やることをすませる必要があったからだ。

 人を象った荷物に命を芽吹くためスイッチをオフからオンへと切り替えた。一瞬ブーンという低い音が小さく響いた。すると指先がゆっくりと動き手のひらは握られていた。

「これで魂が注入というわけだ」

 ご満悦の表情のままマンションの部屋へとむかった。部屋で待つ愛妻がどんな顔をするか楽しみでしかたがなかった。

「ただいま」

「おかえり」

 名響は笑顔で出迎えたが、すぐに違和感に気づく。夫の手よりも遥かに小さい手を握っていたからだ。

 名響はとうぜんの反応をみせた。この上ないサプライズのはじまりだ。

「なに、どうしたのその子…」

 五歳の男子を連れ帰った改に言いようのない疑惑の眼差しがむいていた。

「知人の子どもで、海外へ長期滞在するらしく預かることになった」

 もちろん嘘だ。だが、名響は猫のような目を丸くさせていた。

「きょう出掛けた用事ってこういうことだったの、預かったってその子の家族はどうしてるわけ? 返してらっしゃい」

 猫を預かったわけじゃないんだから。と思いながら名響の意外な反応で困惑した。

 しばらく家族だねとか、子どもができたみたいでうれしい、とかいうかと思ったが、やはりありえない状況に戸惑っているのかもしれない。

 改はさらに嘘をつく。

「そいつの奥さん事故で亡くなって…身寄りもない男でさ、数日だけだから…家族と思って暮らしてくれないか」

 名響は少し考えるような顔をして夫の目を覗く。凝視する。探っている。顔色から瞳から心の奥底を覗き込み、根こそぎえぐるように。

「わかった」

 一点の曇りもないと判断してくれたのか、名響は微笑みを取り繕った。その笑顔は幼児にむけてのものだった。

 すべてを納得したわけではなさそうだが、とりあえず敷居は越えた。戸惑いながらもこの一度のラリーであっさりと越えた。諍いになるかと冷や冷やになった。

 名響がみせた顔は、鬼の面相に変化しそうだった。

「晩ごはんにするから、その男の子の分も用意しなきゃね」名響は台所に立ち背面姿で言った。

 いちばん肝心なことを思い出し振り返る。

「名前は?」

 その手には味噌汁を作っていたのか、お玉を持っていた。

 猫じゃねぇよ、と言いたいが改は待ってましたといわんばかりな顔でこたえた。

「蒼い空と書いてソラだ」

 改は考え抜いた。研究所から自宅までフロントガラスから広がる奇妙なほどに濃く青い空が眼にはいり、この名前しかないと信じた。

 くすんだ意味合いではあるが“蒼空”とつけた。

 彼女は反芻した。

「キラキラネームだ。カッコイイわね。よろしくねソラくん」

 男の子は無表情でうなずいた。

 名響にはつたえないほうがいい。

 ほんとうの彼の名前は、型式番号KR-3・H型1778、コードネームはAndante(アンダンテ)。

 KRはKids-Rentalという意味。3は子どものタイプのナンバーらしい。ほかにも赤ん坊タイプ新生児型、幼児型などがある。その番号が振られている。H型はヒューマノイドのHだという。世界で1778体目でレンタルされているいうことだった。何体あるかはわからないが予備個数は常備10体は製造して在庫としてあると話していた。

 コードネームは子どものタイプによって付けられている。さきほどの赤ん坊タイプ新生児型はLargo(ラルゴ)、赤ん坊タイプのハイハイ型はLarghetto(ラルゲット)と音楽のメトロノームのテンポの表示から付けられている。人間の歩調や成長を表わしている。

 なるほど、と思わず改は声にだして納得していた。

 これまでどれだけの数がレンタルしているのかはわからないが少なくとも改がレンタルした時点で1778体は世に出ている。

 ということはもっと多いということだ。世界でそれだけの夫婦が“擬似体験家族”をしなければならない現状だということ。

 現実的問題が現代的問題に感じてならない。

 同じ悩みを持つ父母になる家族がいる。これまた納得。くわえて共感を得た瞬間だった。
 
 

 今夜は彼女が作った晩ごはんをひとつのテーブルで囲み食べた。三人でいる空間がとても新鮮だった。

 

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キッズ・レンタル 第1話第2話第3話第4話

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