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現代ファンタジー

キッズ・レンタル3(全4話)

   

 名響は蒼空にたいしてとても厳しかった。他人の預かった子どもなら些細なことなら押し黙ることでも、不満やつぶやきを愚痴を漏らすと思うのだが、彼女は恐ろしいくらい躾ていた。

 箸の持ち方、挨拶、食事のときのいただきます。感謝、礼儀、姿勢などの振る舞いを叩き込んでいた。まるで自分たちの子どものように、ほんとうの母親の姿をみせていた。

「なぜかわからないけど、うるさく言っちゃうのよ、どうしてかな」

 困惑している名響の初めてみせる顔だった。

 直感的にわかっているのかもしれない。改と名響の特徴をインプットされている蒼空の存在は、そう遠くない未来の自分たちの子どもであると。

 父親側ではわかりえないことでも母性本能で伝達されるのだろう。まさに以心伝心だ。

「いいんじゃないか」

 改はいまのままでいいと結論に至る。

 これは家族ごっこ、体験版なのだからバージョンアップする必要もない。改を含め家族が成り立つかこの目で確かめるためのテストだ。

 名響に相談もなくやったのはある意味サプライズであったが、母親らしさが垣間見えてくる名響の姿に改のほうが驚愕している。

 明るくにこやかな名響が母親になると、とても良い姿をみられたのはうれしかった。

「きみはおれの母親とはちがうな。こんなにも教育的になるとは思わなかったよ。その姿は母親らしくていいね」

「それって、うるさいっていいたいの」

 不機嫌な顔がよく見えるのはなぜだろう。そういう顔もたまにはいい。

「そんなわけないじゃん。誉めてるんだよ。名響に任せたら子どもができてもしっかり成長すると思って…」

 彼女の頬は赤く染まった。照れている証拠なのだ。うちにこめようとすればするほど熟れたりんごのような赤色の表情に染まる。

「そういうときの顔は相変わらずの乙女だな」

 改はいじわるそうに笑った。

「いじわる!」

 赤い風船のように膨れた彼女の顔はまだまだ幼さがにじみ出ていた。だが唐突に形相が変わる。

「コラッ、ソラ!」

 母親になりきっている名響は他人の子どもを預かっている意識は消えていた。

「ん?」

 蒼空は人間らしくその手にはゲームを持っていた。

「そんなのばかりやってないで、たまには本でも読んだら」

「だいじょうぶだよ。ぼくには“不必要”だよ」

 名響はいつも不思議そうに面食らったような顔をした。

 五歳の子どもが“不必要”なんて言葉を言うのかしらと疑問を抱いていた。

 改も同感だった。なぜ子どもらしい言語をインプットしてくれなかったのか。

 国語辞典に載っている語録や語訳をそのままインプットして活用できるようにプログラムしているのか。それとも改か名響が五歳のころ、そういう発言をしていたってことになる。

 歳相応で月日の経過とともに成長できるプログラムではない。ゲームをしている姿は幼児そのものだが、頭脳はまちがいなく改よりも言葉を単語を知っているかもしれない。

「なぁ──」

 改は蒼空に近寄り耳打ちした。

「てんじょうてんげゆいがどくそん、って漢字で書けるか」

 蒼空はくるっと向き直り、その手にもっている改のメモ帳とボールペンに手を伸ばすと書きはじめた。

 見事なまでに「天上天下唯我独尊」を書き記した。

「こりゃ、博士たちの知識が詰めこまれているんじゃないか。子ども目線で頼むぜ──」

 

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キッズ・レンタル 第1話第2話第3話第4話

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