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現代ファンタジー

キッズ・レンタル3(全4話)

   

 蒼空をレンタルして一ヶ月が経った。暮らしの経過とともに大人と子どもの関係性が成り立っていないような気がしてならない。

 名響は蒼空の父親はまだ引き取りにこないのかと聞いてくるが、まだだ、と返すだけだった。

 彼女も「ふーん」とだけ言って話題を終わらせる。しかし女は勘がいい。なにかを勘づいているのかもしれない。ふーんと鼻にかかった思わせぶりな顔が改を怯ませる。

「ソラって」名響は改の耳にひそひそと話しかけてきた。「なんか頭いいかな…よその子どもとくらべるわけではないけど」

 母親とはいつも他人と比べたがるものだ。子どもにとってはたまったものではないがなぜそうおもったのか、改はひやりと背筋に冷たい雫が垂れた。

「そうかな、蒼空は普通の子だとおもうよ」

 改にはそういわざるをえない。正直にロボットだといったらこの“家族ごっこ”は終了してしまう。

 名響に子どもを用意すること事態まちがっていた。疑似体験で生み出す結果は理想どおりとはいえない。

 自分たちの子どもと蒼空という一時預かっていた子どもをくらべてしまう。劣る我が子に劣等感さえ抱きスパルタママにならなければいいのだが。

 もしかしたら改はよけいなことをしているのではないか、と悩みはじめていた。

 自分たちの子どもではないという概念から躾というよりも手間や世話がかからないように頼んでいるような雰囲気を感じていた。

「頭がいい子って、どうも私たちには不向きな気がする」

 名響の爆弾的な発言だった。

「だってゲームより読書したらって、あの子のやることを否定すると、ちょっと良質な知識をほのめかすでしょ。なんか五歳っぽくないっていうか、ちょっと素直にあの子のことを受け入れられないというか…よくわからないけど」

 最後はちょっと含み笑いが混じっていた。

「気にするなよ」

 蒼空が改と名響の特徴をインプットされているとおもうと将来自分たちのほんとうの子どもができたときにおなじことをいうだろうか。もっともそんなに賢い子どもが誕生するかはわからない。

 最初から知識がインプットされているロボットに幼児がかなうわけがない。

 五歳でありながら博士クラスの知恵をもちあわせている天才児に簡単になれるのがロボットだ。将来的に子どものできない家族には、こういう現象が起きる時代がくるかもしれない。

 どことなく皮肉をほのめかすところなんかは改の特徴が顕著に現れていた。

 蒼空は改にはちっともなつかない。ゲームも一緒にやろうと誘ってもこない。名響にたいしても主張をしない。預かりの子という立場を理解して遠慮している、というふうにインプットされているのだろうか。

 そうともおもえない。改はだんだんと蒼空の存在について不安が大きくなっていることに気づきはじめていた。

「人がなにかを試すときってかなり複雑で完結しない結論に悩まされる。その試すことのおこないこそが神のみに許された所業だ。それを人間同士で契約書を交わして、簡単に試行してしまってだいじょうぶかな。この胸のざわめきが消えない」

 改は胸を手のひらでおさえる。

「なにかを感じとっている。もう一ヶ月が過ぎているのに、この家族ごっこ、そこまでわるくないけど試してよかったとおもってさえいる。おれの結論の断片がうっすらと見えている。蒼空の存在にたいして不安を抱いているだけで子どもを持つということにはなんら障害はない。これが結論のひとつだと信じていかなければ将来子どもができたとき父親として向き合う顔がない」

 改は物思いで青空を見上げながらそう感じていた。声にも出ていた。そっと背後で蒼空は立ち聞きしていた。その顔はロボットというよりも、造りの悪いデク人形のような虚ろとした顔だった。

 

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キッズ・レンタル 第1話第2話第3話第4話

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