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現代ファンタジー

キッズ・レンタル3(全4話)

   

 週末の休日。晴天なり。

 重い腰を持ち上げた改は寝室の鏡のまえで自分のファッションをたしかめていた。自信満々にくちびるを結びうなずいてダイニングへむかった。

「よし、今日は出かけよう」

 名響と蒼空は改がそんなことを言いだすものだから戸惑っていた。

「どうしたのよ、休日は自宅で休むことを選ぶのに」彼女が訝った。

「どこいくの?」

 蒼空は改の特徴がインプットされている。ここまでアクティブにアウトドアな性格ではないことを知っている。だからインプットされたデータとのズレに戸惑っていた。

「たまにはいいだろ、そもそも作家の参考資料は自然のなかにある。一歩外に出れば、目にはいるものすべてが才能ある他者が創造した芸術なんだぞ。そういうものに見て、触れて、また聞いてくるんだよ」

 熱弁する芸術家の話を、彼女は呆気にとられていた。蒼空はひと言も理解できなかったようだ。

 名響が困惑しながらも言った。「まぁ、いいよ。たまには気晴らしに買い物に出掛けるのもいいし。新しいショッピングモールができたところがあるの、そこ行ってみたいな」

 改は、「おう」と過剰にこたえた。

「みんなで出掛けるのはじめてね」

 いざ車が走ると名響はいつもよりも声質が高かった。

「三ヶ月めだからな…」改はそのあとにつづく言葉を心のなかに秘めた。

 家族なら外出だろ、と。

「うん…ねぇ、ソラが落ち着かないみたい」彼女は笑う。

 素っ気なくゲームばかりの蒼空が外の世界へ出歩くのは改と名響の子どもになってからはじめてだろう。窓の外ばかり見ている。まるで学習するかのようにその瞳は外の世界の情報と改と名響以外の人間を観察していた。

 蒼空が改たちの住むマンションに着くとき、自家用車の日産リーフ・Gで運搬されてきたロボットだが、禿面の博士にマンションの駐車場まで起動させないよう注意をされていた。運搬中は安眠状態だった。狭い2LDKの世界しか“小さき鋼鉄の子ども”は際限のないデータを吸収していっているように外界に魅了されていた。

 専業主婦候補者となった名響は仕事を辞めて自宅で主婦業の修行をしていた。蒼空がきてからは二人で留守番となることが多かった。買出しは彼女が一人で出掛け、ロボットはゲームをしながら彼女の帰りを待つ。

 ロボットの脳内に埋め込まれている特殊なデータチップがある。そのチップがとても優秀なものだった。自己学習能力が具わっている。インプットされた特徴を生かし、伸ばし、成長、そして”識別判断力”というものがある。

“識別判断力”、これが曲者だった。この脅威をのちのち改は知ることになる。厄介なのは人間だけではないということだ。

「アイスクリームでも食べたいな」

 彼女がせがむ。まるで少女のようだ。蒼空の、いや、ほかの子どもたちのわがままと変わりはしない。

「いいよ。おれはコーヒーだ。ソラ、なにがいい?」

 蒼空がロボットなのを一瞬忘れていた。

「オレンジジュース」

 まるでしかたなしといったふうに機械的に答えた。しかも主である改を差し置いて世間の広さを目の当たりにし、瞳に映る世界に魅入っている。

「わたし買ってくるね」

 家庭内での役目のひとつでもあるかのように、言伝が癖になっておもわず外出時でも体が動いてしまう。

「わるいね」

 改はそんな彼女の献身的までの優しさがうれしい。「おい、わるかったな」改はロボットに向かって囁いた。

「いいよ」

 無愛想な口調の蒼空の、こういうところが改の特徴なのだろう。

「やんなるな。自分を見ているみたいで」

 蒼空の服を彼女が見立てて選んでくれた。数着しかなかった蒼空の衣服だがほとんど外出しないから、いらないんじゃないか、と改は言った。

 名響は目の色を変えて反論した。

「こういうのは着る着ないじゃなくて、それなりに揃えておくの。すぐに成長しちゃうでしょうけど。こういうのが後々躾につながる。自分でしっかり選択してコーディネートを考えられるような目を持つ。いわゆるファッションセンス。ださくなったら困るもん。言われるのよ、ほかのママや子ども同士、友だちにね」

「ほう」

 イクメンパパになれそうにない改だ。どうやらママ世界の人間関係がそういう話題が表題になって罵りあうのだろう。標的にならないために、それなりに見栄を張り、妥当点を得られるよう周囲に合わせながらも引けをとらない。それがママとしての地位だ。

 名響がドリンクを持ってきた。

「はい」と蒼空に手渡すと、オレンジジュースを飲む姿はいかにも子どもそのものだった。

 

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