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現代ファンタジー

キッズ・レンタル4(全4話)

   

 その日の夕方、改は仕事を早めに終えて帰宅した。仕事といっても取材だった。必要なアイデアを掘り下げるため宛てもない外出に赴いている。気合いをいれて自宅を出ていったときにかぎって、ろくな収穫などないものだ。この日も無駄足となった。

 ドアを開けると水を打ったように部屋は静かだった。

「ただいまぁ~、名響?」

 名響がいるはずだ。蒼空もいるはずなのに気配がない。テレビの音もしなければ音楽も流れていない。ひとが暮らすうえで生じる雑音がなにもしていない。まるで、どこかの異空間にこの部屋の音だけが吸い込まれてしまったみたいに。

 改はリビングにむかった。とりあえず歩先を進める。自宅で集合する場所で家族が集まるのはそこしかない。

「え…」改は動揺した。

 視線のさきの状況に胸がざわめいた。血の気は引き、恐怖が蜘蛛の巣のようにとりまいてくる。受け入れられないその瞳に入り込んでくる光景はいったい、どういう可能性があるだろうか。男はふがいなくぼう然としていた。

 疑問に立ち向かうだけの脳の回転がない。無能の証拠をみずからみせつけている。

 名響がリビングのテービルの床に倒れていた。

「どうした、なにがあった、おい?」

 改の声に無反応な彼女。ぐったりと人形のようにその身からはちからが抜けていた。

「どういうことだ!」

 よくみると、名響の端整な顔の右側に異変が露わになっていた。白い肌が赤く染まっている。

「どこかぶつけて気絶したのか?」

 あれこれと考えても答えがでない。

 自分が無力だと思い知った。なにもできない。ちょっとしたパニックだ。その混乱のさきに答えをみつけた。救急車がよぎった。

「電話しなきゃ」

 思いついたその瞬間、背後から小さな小さな足音が、サッ、サッ、と近づく気配を感じた。しかし気配などないはずのそれは異様な気配を放っていた。

「蒼空、おまえ…」

 その顔は無表情だった。子どもらしくおびえることもなく、悲壮の涙も浮かべない。ロボットだからしかたないこと。しかし、事実をしっている。それを解明後、救急車を呼ぶことにすることを改は決めた。

「なにがあったか話せ…」改はロボットにむけて話す。

 蒼空の顔は不安そうな顔をしていたかと思えば、唐突に薄ら笑いを浮かべた。

「その女、むかついた。むかついたんだ」感情のこもっていない声質だった。

 ロボットでも子どもの言動とは思えない。

「なにを言っている、どうしたというんだ?」

「そいつさ、ぼくにいちいち、あれやれ、これやれってうるさくてさ、おもわずちからがはいった」

 そういうと、蒼空は腕を振り払うように後ろへ勢いよく飛ばす。おそらくその方向には彼女がいたのだろう。それは打撃となって彼女へダメージとしてその身に受けた。だから、こんなところで倒れこんでいることに説明がつく。

「ずいぶんと、流暢に話すようになったな。そんなことで彼女を傷つけたのか!」改はロボットをにらむ。

 ロボットはやれやれ、といった様子で首を左右に動かした。

「おまえな!」

 蒼空は眼前の人間を刺すように見下ろす。

「ぼくは見たんだ。世の中の様子や、人間を…」

 一瞬だったが、数分くらいの時間が止まったように感じた。

「なにを見たかしらんが…、契約したおまえの会社にクレームだ。あの二人の博士に意見してやる」

 改は妥協のない見下す物言いで反論した。

「それはさせないよ」

 ロボットは一歩まえへ出る。それは攻撃の合図だと改は認めた。彼女をソファに寝かせた瞬間、ロボットは飛び掛ってきた。

 

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キッズ・レンタル 第1話第2話第3話第4話

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