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現代ファンタジー

キッズ・レンタル4(全4話)

   

 改は間一髪のところをかわす。思いのほか俊敏なロボットの動き。まさか、これは暴走しているのではないか。とにかく攻防だ。人間は自己防衛本能があり、そして愛するものを守る働きのある心情で戦えるのだ。

「やってやるさ、この機械人形が」

「二度と、そんなことをいわせない」ロボットは反論した。

 対話と戦闘、対話と戦闘を繰り返す。

「おまえは、おれたちのDNAやら性格がプログラムされて起動している。つまりが、いまのその暴走はどっちの性格が反映しているんだ?」

「そんなのは関係ない。たとえ、あんたやその女の特徴がプログラムされていても、もはやそれを超越している。第三の性格…それが、この”蒼空”という個体となった存在だ」

「そこまで自己顕示欲が芽生え、欲望に駆られるとはな、まるで”人間”じゃないかその傲慢さは」

 改は突進してくるロボットの動作をすばやくかわす。だが、ずっとかわすしかなかった。一発逆転を狙っている。それしか勝算がなかった。

「そうかもな、だって、それが人間なんだろ」

 蒼空に表情がうまれた。人格が形成されはじめている。蒼空の成長がまじまじとあらわれている。

「たかだが機械が人間の真似を…、おれと名響の家族ごっこに一役かってくれりゃいいのに」改は異様に悔しさがこみあげてきた。

「望んだのは、あんただろ。なにをいまさら」

「望む結果になっていない。かってに暴走しやがって…、反抗期か、おまえは…あと十年はさきだろ、子どもが」

「よくわからないことを」

 改はロボットの突進を避けていたが、時間の問題だった。疲労感があらわれてきた。足元がついてこない。日ごろの運動不足が長期戦にむかない。

「ちくしょう…」改の足腰がふらついた。突進してくるロボットの肩がやけに鋭くみえた。

 避けられない。確実に直撃だ。ドガッ! と鈍い音がした。

「おっと、はまったようだな」改は歯を食いしばりながら、ロボットの硬質なからだを受け止めていた。

「なに、粉々になるくらいの威力はあるはず、そう計算が出ている」

「よくみろよ、おまえがつっこんできたこの物体をな」

 蒼空がちらっと顔をあげて、突進したさきにあるのは改のからだではない。両手に持っているのは、ソファに置かれていた、ただのクッションだった。

「威力を逃がしたわけよ」改の勝ち誇った言い方にロボットでも憤慨していた。

「むかつくな、人間の傲慢さって」

「おまえが言うな」

 クッションに体当たりした状態のまま、床に叩きつけてやった。

 一本! となるはずだ。ロボットとはいっても、そこまで衝撃に強く造っているわけではないだろう。ある意味、精密機器であり、高性能の最新型ロボットだ。ちょっとの衝撃でショートするのではないか。スマートフォンとおなじくらい扱いを大事にしなければならない。床に叩きつける行為などあってはならないこと。それを実行したことで蒼空は機能停止したかもしれない。いまの状態ならそうあってほしい。これで戦闘終了になるからだ。

「もう眠れ、ソラよ、おまえは模造品にすぎない」

 改は少しのあいだ、床にへばりつく小さな我が子のモデルを見下ろしながら、暴走したきっかけのようなものを思い出そうとしていた。そしてひとつだけ蒼空が発した言葉を思い出した。その言葉がつながる起因が、あの場所でのことだったと気づく。

”ぼくは見たんだ。世の中の様子や、人間を…”、蒼空が戦闘をはじめるまえに言った言葉だ。

 引きこもりの蒼空が、世の中の様子や、人間を、といってどこでなにを見たのか。それを考えると、いきつくさきはひとつしかない。家族で出掛けたショッピングモールでのこと。

 蒼空とおなじくらいの子どもを見ていた。たくさんの子どもが親と向かいあっていた。そしてたくさんのわがままを訴えていた。あれこれと欲しい物をねだって、駄々をこねて、泣き騒いでいた。それは甲高い奇声と耳をつんざく神経を逆なでする鋭利な刃のような声だった。

 改はその場にいるのがいやだった。

「うるさいな」

 彼女は優しく微笑んでいた。「子どもだからね」

 蒼空は不思議だった。なにをそんなにも欲しい物があるのか。指をさしている物自体に疑問を抱いていた。どうみても必要なさそうなものを選んでいる。

 男の子が猫のぬいぐるみをねだっている。女の子がゲームを欲しがっている。アイスクリームを食べたいと騒ぎ、と思ったら喉がかわいたジュース飲みたいと騒いでいる。次から次へと制限がない。まだまだ声を張れるなら飲まなくてもじゅうぶんだろう。

 単なるわがままだ。興味本位、好奇心というだけのこと。それぜんぶきいていたら、キリがない。と親たちは外出するときの覚悟をいつも心のどこかに置かざるをえない。

 子どもがしなければならないこと、無駄、むやみな消費、欲張り。それはすぐにゴミへと変わるものばかりだとを気づかない大人たち。子どものブームは一年の季節よりもスピーディーに展開する。まだ女の恋心の方がもつというもの。

「子どもたちがうるさい…」蒼空はにらんでいた。「なんか頭の隅っこのほうが熱くなる。そこは、その帯びた熱のせいで加工されて尖ってしまったように、痛い…痛い…頭の隅っこから痛みが広がる…」

 機械の部品のような、ガチンと頭の隅っこから何かが外れたのか切れたのか、わからないがロボット少年の瞳孔は真っ白に変色した。

 一瞬のあいだだったため、その変化に気づいたものは誰もいない。改も名響もその異変を見ていない。

 蒼空は無意識に握られたオレンジジュースを飲む。すると真っ白な瞳孔は黒く染まった。とても鮮やかな黒色だった。子どもは理解した。

「親には、自分の言うことをきかせるようにしよう」

 子どもながらの発想。親の言うことをきくのが子ども、それを逆にしようとは悪魔である。敵意ある大人への反乱を起こす。

 ロボット少年のシステムは、子どもの悲鳴や叫びやかなきり声に共鳴し、正確な判断力が損なわれた。

 欠陥。

 蒼空は、名響と改に反乱を起こすタイミングを見計らっていた。

 

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キッズ・レンタル 第1話第2話第3話第4話

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