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現代ドラマ

東京;三鷹ブギウギ(前編)

   

 三鷹通りの“李さんの台湾名物屋台”近くの古びたアパートで育った少女は漆原うるはら 小町こまちという。

 父親は漆原うるはら 健晴たてはる。娘を置き去りにしたというのに、小町は「いつも家にいて、一緒に遊んでくれるたのしいお父さんなんや」と言っていた。

 いったいどこへ行ってしまったのか。大人の事情は子供からしてみたらバミューダトライアングルのように謎である。

 母親は漆原うるはら 瓔子ようこ。とにかく明るくにぎやかな母といっていた。

「いつもおいしいご飯を作ってくれる優しいお母さん」と初めて笑顔を浮かべて遥翔に話した。大好きな母だというのがみてわかる。

 両親ともに三十歳前半らしい。家族関係は良好だというが、いったいどうして一人広場に置き去りにされてしまったのか。最後に父親をみたのも昼過ぎと話していた。

 住んでいるアパートに帰れば母親がいると思ったが小町はとんでもないことを言った。

「お母さんはひと月前から旅行に出掛けたってお父さんが言ってた──」

 ひと月前? 少女に疑いはなかった。遥翔はその素直さに蒼白していた。

「家族関係は良好って、不仲なんじゃないか」

 不幸な家庭環境で育っている五歳の少女に遥翔はかける言葉がみつからない。

「この年齢じゃ親に捨てられたなんて、まだ理解できないだろうな」

 これからたどる道は孤独な道である。そのことをまだしらない。

 少女を連れて遥翔は古着屋店を経営している自宅に帰宅した。遥翔の父親と母親は店番をしていた。平日、この日の午後は休みだった。

「おかえり、店番もしないでどこいってたんだ?」

 親父ではなく同い年の安永やすなが 優星ゆうせいが遥翔を咎めた。金持ちでオシャレな息子が貧乏古着屋店に馴染み過ぎだ、と遥翔はいつも注意していた。

「なんでいんだよおまえら…」

 遥翔はしかめっ面になった。

「息抜きにきたんだよ。親父がまたビルを建設するからその手伝いをして疲れたから、ここで休んでる」

「後継ぎだろ、精いっぱい努めろよ」

 優星は三鷹商店街の元締めオーナーになることが決まっている。そのためどれだけの夢を抱こうと、ほかの道はない。趣味の範囲でやるだけだと言いつけられていた。

「おれらにそんな態度でいいのか?」

 同じく幼馴染の三歳年下の渡真利とまり りょう、192センチ、都内で100メートル高校記録保持者。いまだ破られていないのをいまだに誇示している。

「稜がいるとリビングがいつになく狭く感じるな」

 稜は眉を顰めた。その理由はひとつだ。

「てかさ…」優星の視線が下がった。

 稜も口を閉ざし、ちらっと遥翔の背後でちいさく見え隠れする小動物を凝視する。

「その女の子なに?」稜が指を示した。「彼女?」

「デートの邪魔しちゃってわるかったな。だから不機嫌なわけだ」優星はにやにやしてからかった。

「んなわけねーだろ!」遥翔はそういえば拾い物をしたのを忘れるところだった。

「ロリコン!」優星と稜は声をそろえて言った。

「ふざけんな、帰れよ。冷やかしはごめんだ」遥翔は憤慨していた。

 善良なる親切心をからかわれている。そこに空気を読まない素っとん狂な声を上げて現れた遥翔の母がけたたましく煽りはじめた。

「まぁまぁ、こんなかわいい女の子ができて、お母さん嬉しいわ」

「バカか」

「母親にバカとはなんだ、まったく」

 耳を引っ張る遥翔の母親だった。

 大笑いする優星と稜は家族のように笑う。もう十年来の馴染みの仲間だ。

「人の不幸をたのしむなよ…」遥翔は耳を引っ張られて涙を流していた。

 小町はにぎやかな家庭に触れようと指先を伸ばしていた。

「さぁ、お嬢ちゃん、上がって、夕飯にしましょ!」遥翔の母親はその手を握った。

「うん」ちいさくうなずいた小町だった。

 

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