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現代ドラマ

東京;三鷹ブギウギ(前編)

   

 翌朝、優星と稜は朝食を食べて「おれらは手伝えない」と冷たく言い放ちそそくさと出ていった。

「なんなんだあいつら…てっきり手伝ってくれると」

 テレビ画面から動物のおもしろ動画特集を小町は見入っていた。

「おれだけで十分だ」

 やる気と表情が反比例するように遥翔の顔は引き攣っていた。

 学校の勉強より、ミステリー小説を読むのが好きな遥翔は頭がいい方ではある。子どもの親探しくらい一人でもできると自負していた。だが、やはりヒントがなければ見当もつかない。

「娘を放置ってやっぱりありえない、まだこの街にいるはず」

 遥翔は小町を連れて自宅を出た。母親が、今日両親と会えなかったらまた連れてきなと言った。

 小町は振り返りながらちいさな手を母親に振っていた。名残惜しいのだろう。少なからず母のぬくもりを小町の手は感じていたのかもしれない。

「まずは自宅に行って手がかりを探す。そのあとは台湾屋台あたりからから聴き込みだ」

 三鷹駅北口の三鷹商店街、東大通り沿いの裏道にあるアパートに小町は住んでいる。

「ここ」指し示すアパートの一階だった。小町は鍵をもっていた。玄関から入ったが、やはりだれもいない。

 間取りはキッチンと六畳の部屋がふたつ。内ひとつは寝室だった。遥翔は適当に戸棚の引き出しを引いてみた。手がかりを探すためだ。すると似たような封筒を数十枚もみつけた。

「これは…、なるほど、そういうことか」

 手がかりというより失踪した理由がそこにはあった。

 ピンポーン。アパートの部屋の呼び鈴が鳴った。

 9時過ぎ、こんな早くに来客か。息をひそめようと遥翔は訪問者を疑うが、小町は両親が帰ってきたと思って玄関を開けてしまった。

「やぁ、おはよう、お嬢ちゃん」低くどす黒い声の厳つい男が二人立っていた。

 遥翔は人相の悪い訪問者がどこのだれかすぐに察しがついた。寝室の戸棚の引き出しに入っていた封筒に関わる人物。

「借金取か?」遥翔は口を尖らす。

「そうだが、ここのお兄さんかな、なら借金返してもらおう」

 三鷹駅北口から武蔵野通りのすぐのところに事務所がある。そこの金融会社“赤門金融会社”の者だった。

「ちょっと待て、おれは関係ない。この子だってまだ5歳だ。金目のものはいっさいない。この状況見ればわかるだろ」

 遥翔はさすがに肩代わりできるほど裕福ではない。関わったとしても筋違いだ。もし暴力で対処するのであれば、それ相応に痛い目にあわせるだけの算段は遥翔としても手はある。

「だが、この娘はここの子供だ。親の行先くらいわかるだろ。それを話せ」

 角刈りの黒ずくめのスーツの男は松村まつむら 宗徳しゅうとく。このあたりでは肩で風をきってがに股で歩くイカツイ男だ。関わることはいっさいないと思っていた。

 赤門金融会社はやり方が薄汚れたごろつきだ。徹底的の追い込み、根こそぎ強奪していく。それが金貸しとの契りを交わした道理であると言い張るのだ。

「昨日、父親を広場で見つけたが逃げられてね、先月と今月分の支払いがおとといまでだった。いいかげん支払ってもらわんとな」

 リーゼントの花柄シャツの安城あじろ 鋭治えいじがいかにもチンピラ風だった。どちらも30歳前後のようだが、たちの悪さが目につく。

「おれに名刺を渡されても、支払えるわけないし…」

「関わりあいになったのが運のツキってもんでしょ、こんなちいさな子どもを路頭に迷わせてしまうんですか?」

 松村の同情を誘いながらもどこか脅迫めいた物言いが歯に衣着せぬ言い方だった。

 遥翔はたじろいながらめまいを引き起こしていた。このやろう、と怒りを胸のうちに気を静めた。どうやら遥翔の算段の手を放つときがきたようだ。

「よし、わかった。ちょっと待って、おれもこの子の両親を捜そうと思っている。だから、わかったら教える。ひとまずそれで引いてもらえるか?」

 遥翔は言い訳しながら靴を履いた。小町に玄関の鍵をかけさせた。

「ちょっとお兄さん、それはないな。それじゃこちらはいつまで待てばいいのかわからない…」

 松村は若者にガンを飛ばした。

 すると遥翔は背を向け、小町の耳元でひそひそと囁いた。

「なんだ、なにを言ってるんだ? そういう態度はやめてもらえるか」

 松村は眉間に皺を寄せた。その行動があまりにも不自然だったからだ。なにかを企んでいる。裏の世界で蔓延り生きている者だけに冴え渡る直感だった。

 小町はゆっくりと取り立てにきた男二人に笑顔をみせながら、思いっきり脛を蹴り上げた。

「いてぇー!」

 張り詰めた声を上げて、ひっくり返る男二人。その隙に遥翔は小町を抱きかかえ逃げた。

 これが遥翔の奥の手とでもいうのだろう。姑息なまねをするのが悪知恵というものだ。

「でかした、うまくいった」遥翔は勝ち誇った。

「うまくいった」小町はご満悦に、二人は逃げた。

 

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