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現代ドラマ

東京;三鷹ブギウギ(後編)

   

姿を消した小町の両親だが、手がかりを探していると金融会社の男たちと遭遇した。

男たちが小町を連れ去ろうとしたとき、遥翔の機転で三鷹の街を疾走する。

三鷹の町の路地裏へと身を隠すが、男たちは追撃の手を緩めない。

ついには目撃情報から遥翔たちの隠れているところへと忍び寄ってくる。
 
 

身の危険が迫るその瞬間、幼馴染の友情によって二人の窮地を救ったのが──

 

 男たちの背後から女の声が飛んできた。遥翔は安堵するように全身の力が抜けた。

 駅の北口のメインストート前を通り過ぎたとき、宇佐美うさみ 咲乃さくの比嘉ひが 雪愛ゆきあが遥翔が少女を抱きかかえ逃げているのを目撃した。わけのわからない光景に呆気にとられていた。

 二人はひらひらとした派手な服装に唇が真っ赤になるほど厚めの化粧で登場した。こう見えて二人とも二十歳だ。

 遥翔や優星と稜の三人とは幼馴染である。

「えっ、なにあれ…隠し子?」咲乃は目を丸くさせていた。

「さぁ、もしそうだったら、なんか許せない」雪愛も顔が引き攣っていた。

 咲乃が優星にメールした。女の子について何か知っていないか探りを入れた。それで状況を飲み込んだ。

「なにやってんのよ、あいつは」雪愛は呆れながらぼやいた。

「とりあえず警察に通報しておくね。なんかピンチっぽいし」咲乃はすぐに機転を利かせて携帯電話を握り発信させた。

 すると警官を五名連れて追いかけてきたのだった。

「助かったよ」

 遥翔は心底仲間がいることに感謝した。稜や優星のどちらかがいれば二対二で抗っていたと思う。さすがに取り立てを生業にしている輩だ。裏では腕におぼえがあるだろう。小町のような幼児を護りながら戦うことは不可避である。

 警官五名で借金取りの男二人を拘束した。事情はどうあれ違法な取り立ては厳重に処分される。

 雪愛が遥翔に言った。優星にメールして事情を知ったが、どうみても蔑むような眼差しが突き刺していた。

「ちいさな女の子と逃げてるから、なにごとかとおもった…」

「あー、でもサンキュ、マジ助かった」遥翔は雪愛と咲乃に感謝した。

「いいわよ礼なんて。わたしはあんたが、その女の子を誘拐してんのかと思っただけだから──」

 咲乃は鋭い口調で冗談抜きで本気で釘を刺した。

「はっ? それで仲間のおれを追ってきたのか、おまえ!」

「そうみたい。でもよかったじゃない、結果的に」雪愛の笑みを浮かべ、結果オーライと口癖のように言っている。

「まぁね、そうだね。結果的によかった、あー! まったく!」最後のほうは咲乃にたいして声を荒げる遥翔だった。

 小町はまた大笑いしていた。

 母親に捨てられた事実に気づいてしまった5歳児にとっては不幸でしかないが、まだ笑顔を浮かべられることに遥翔は救われる。

 いつのまにか、駅の南口前のふれあい広場に来ていた。

「ふー、これからどうすっか…」

 失踪理由はわかっても潜伏先の手がかりがない。もどってくるまで5歳児を預かるしかない。

「小町!」

 遥翔の足元にいる小町に叫んでいる一人の女性。雪愛と咲乃は遥翔同様その女性がだれなのか、すぐにわかった。

「お母さん…」小町はぼそっとつぶやいた。

 駆けだした少女は母にすがるように抱きついた。

「帰ってきたんだ、一月も放置しておいて」遥翔は呆気にとられた。

「衝動的な家出でしょ、お腹を痛めた実の娘を気にしてもどってきた。それだけよ」咲乃は母親の気もちがわかる、そんな口ぶりだった。

 よく見ると母親のとなりには中年の男性が佇んでいた。

「だれかな」咲乃が不安そうに覗いていた。

 遥翔はずっと捜していた。「だいじょうぶだ、やっと家族がそろったみたいだ」

 先日娘を一人この広場に置き去りにしたのは、母親と再会していた。そこへ取り立てのあの男たちが姿を現わしたことで、身を隠さなければならなくなった。そして逃げたのだ。本当なら娘の手を引っ張ってやりたかったが、ふれあい広場でイベントが開催される予定になっていた。そのせいで近寄ろうとした両親が人だかりに阻まれてしまった。

 胸をかきむしりたいほど苦しくなったが、ふれあい広場から遠ざかるしかなかった。数時間経てば、あの男たちもいなくなっているだろうと踏んで一旦は撤退した。

 しかし、男たちは太陽が沈んでもまだ広場にいた。ふれあい広場で開催されるイベントに参加している様子だった。

 目を盗んで娘を、とおもったが辺りにはその小町がいない。

 このときすでに遥翔が気をつかい保護していたのだ。

 遠回りしたが、これが最善で安全な再会だったろう。

「よかったな」遥翔は小町に声をかけた。

「うん、ありがとう」

 やっと素直な女の子になった。苦労した甲斐があったというものだ。

 なんのメリットもない人助けを、古着屋の店主がなにをしているのか、と自問自答していた。

 

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