幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ミステリー

あまつさえ、裏を探る者!1(全4話)

   

神山来夢はめんどくさがりの探偵だ。いざ依頼がくれば抜かりなく解決していく。それも奇妙な仲間が神山を支えているからだろう。

探偵社の代表は亜麻津紗江。とても美人で色気のある女性だ。

神山はテレビ画面に釘付けになり、ファンである月城アナウンサーに思いを寄せていた。

彼女がテレビ画面で報じているのは、大物政治家の豊永大臣の汚職。収賄の疑いで謝罪会見を開いていた。

世間が注目するなか、ある人物から亜麻津探偵事務所に依頼が寄せられた。

神山は単独で依頼を引き受け出掛けていく。仲間の吾妻秀吾のフォローをしてもらいながら真相を追っていく──

 

 良くも悪くも、政治家の記者会見がはじまった。

 テレビ画面を食い入るように見つめるのは、神山こうやま 来夢らいむだ。その模様をつぶさに聞き逃すことのないよう目頭に力を入れて見ていた。

 壇上の真ん中にどす黒いスーツに膨らんだ身体を包みこむ白髪交じりの男が現れた。

「それでは豊永とよなが 博満ひろみつ大臣からお話をしていただきます」司会の男が紹介した。

 政治家は咳払いをひとつして唸るように低い声が響く。

 その声を口を結び耳を傾ける取材をする多くの報道関係者がその場を埋め尽くしていた。しかし、その眼光はあきらかにスクープネタを追い求めるものだった。

「今回のことは私の不徳の致すところです。経緯はみなさんご存じだと思います。説明するまでもない。報道の方が伝えたとおりです。めずらしく的を得た。しっかりと取材をされたようですな。ただしく報道されている。見事だ。私がここで申し上げることはひとつだけです。今回の事態の責任として頭を下げるためにテレビカメラの前に出る決意に至りました──」

 重量感のある身体を席から起こし、直立不動した豊永大臣は正面を向き頭を下げた。腰の角度は90度。だが謝罪の言葉はあまりにも幼稚だった。

「ごめんなさい」

「それで謝ったつもりかよ!」

 罵声が大臣にむけて投げられた。

 政治家はバッシングを気にもせず、役目を終えたように壇上から立ち去ろうとしているのを記者が呼び止めた。

「自分の口でもっと経緯を話すべきだ!」

 国会の答弁論とかでよくみる光景だ。野次が飛び交っている。

「私は謝罪するためだけにきただけですから」

 ゆっさゆっさ身体を揺らす後ろ姿は横綱のようだった。それ以上語ることのない横綱級の政治家は沈黙のまま去っていった。

 怒号にも似たカメラのフラッシュがバチバチと明滅した。神山もまぶしくて画面を直視できなかった。

「なんだこの謝罪会見は…、世間に頭を下げたまではいいが結局真相をあきらかにしていない。そこが知りたいんだよ世間というのは…政治家の下げた頭なんて関心はない。事実が知りたいんだよ」

 報道番組のスタジオに画面が切り替わった。女性アナウンサーが困惑した面持ちで呆然としていた。

「えー、会見はあっというまに終わってしまいました。いかがでしたか?」女性アナウンサーがご意見番に訊ねた。

「これじゃ今回問題になっていることの釈明にはならない。謝っただけで真意は掴めないままです。意味がないですね」政治評論家は苦笑しながら言及した。

「そうですよね、けして許されることではないです。関係者は憤怒の昂る衝動を抑えきれないと思います。豊永大臣もこのままですと進退が危ういと思いますが」

「おそらく今日がその枝分かれする日となるでしょう。ご自身に振りかかる災いを懸念すべきです」

 神山は同意するようにうなずいていた。「この政治家は今日か明日にも殺される」

「続いてのニュースです」女子アナは次の原稿を読み綴る。「都内、大学生の日浦 裕哉(ひうら ゆうや)さん、22歳が転落によって死亡しました。事件性はなく事故によるものだと…」

 昼の時間帯の番組はどのチャンネルも特別報道番組が放送されている。世論は豊永大臣の失態について関心を寄せていた。

 神山は事務所のソファに身をあずけながら、テレビチャンネルを独占していた。

「うーん、険しい顔しているけど月城つきしろ 花乃はなのアナウンサー、やっぱカワイイなぁ。25歳とは思えない落ち着きようだ」

「月城アナが出ているからこのチャンネルに? 僕は別のチャンネルがみたいんですけど──」

 ソファに座る背後から秀吾が意見した。

 吾妻あづま 秀吾しゅうご。22歳の若輩者だ。神山の部下で、髪の毛はいつも寝ぐせのぼさぼさ頭。眼鏡をかけたインテリな印象はそのままだ。だがこいつの精神面はまだまだ幼い。矮小そのものだ。

 神山は30歳になっている。人生経験の差が大きく出ている。だが、秀吾はよく神山に意見をする。

「ワンセグでみろよ、24インチ画面のサイズでおれはみたいの」

 政治家が謝罪した理由は賄賂疑惑。いまだそんな姑息なことを、とんだお笑い種だ、と神山が嘲笑う。

「ここまで大ごとになるとはね…、連日このニュースで盛り上がってさ、政治家というのは心に隙をつくってはダメだな。金をめぐって紙面で叩かれてご苦労なことだ。報道や新聞関係者には金になる記事なんだろうけど」

「なりますね。それを生業にしている人たちですから」秀吾は即答した。

「詳しいなおまえ…、でも、今どき政治家の収賄疑惑なんて常習化しているだろ。叩きすぎに思うが」

「それを肯定したら一般人は暴徒化します。自分たちが支払っている税金をなにしてくれてんだって…」

 神山はお堅い若僧が部下であることに安心していた。「まぁ、そうだな…、おまえはずいぶんと立派だ。おれが保証する」

「いりませんよ、そんなの。というより、あなたは仕事の内容と報酬について無頓着すぎると思います」

「言ってくれるね、若者よ」

 パソコンのキーボードをパチパチと指を動かしながら秀吾はたしなめる。

「あなたたち」

 開いた扉を背に両腕を組みながら佇むのは、この探偵事務所の代表、亜麻津あまつ 紗江さえが二人のうだつがあがらない会話を傾聴していた。

「代表──」秀吾がハッとして起立した。

「いつのまに、あいかわらず気配を感じさせない」神山も胸を手でおさえる仕草をさせるほど驚かせた。

 この探偵事務所の代表、とても47歳には見えない風貌である。黒いロングヘアー、スタイルも抜群。見た目は三十路の色気を放つ女帝だ。

 

-ミステリー
-, ,

シリーズリンク

あまつさえ、裏を探る者! 第1話第2話第3話第4話

レビュー

この作品はいかがでしたか?
あなたの感想を送って、作家を応援しよう!

レビューを書く

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

おすすめ作品