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ミステリー

あまつさえ、裏を探る者!3(全4話)

   

色仕掛けの静美麗紅と神山は行動を共にフリー記者の野田と待ち合わせをしていた。

野田が書いた収賄記事が捏造であると神山は指摘した。怒涛の物言いで詰問するが、野田は不自然なほど静かだった。

まるでバレてもかまわない、そんな態度だった。会話を進めるうちに野田は豹変し、神山と麗紅を罠に嵌めていた。

気づいたときには遅かった。周囲には複数の黒い影に囲まれていた。そして、神山と麗紅は気絶させられた。

二人の命運は──

 

 神山と麗紅は野田が指定した場所と待ち合わせ時間に来ていた。品川付近の使われていない倉庫だ。

「こんなところを指定してくるとは、用心にもほどがある。なんか企んでいるのか」神山は不愉快そうに吐き捨てた。

「ほんとうね、ちょっとこういう雰囲気って怖い」麗紅もうんざりしていた。恐怖がせりあがっていた。

 探偵事務所に一度戻り社用車で訪れた二人だった。事務所で秀吾を含め情報の整理をして依頼人への報告も済ませると、ある指示がとどいた。

「正面突破が勇気ではないか…」

 探偵社の面々は納得した。

「たしかにそう、どんな相手でも万全を期して最前に立つわたしたちにリスクがないようにしてもらわないと、ほんとうにわりに合わないから──」麗紅がふて腐れ顔で言った。

「そうだな。だが、強力なバックアップがあれば一歩前に踏み出せる」
 
 

 足音が遠くから聞こえてきた。倉庫の薄暗さの中でこそこそと身を丸めて神山たちのまえに姿をみせたのは野田だった。

「やっと来たか、19時過ぎにこの場所っていってたのに30分も過ぎているぞ」神山は腕時計の時間をみせた。

「すまない、ちょっと仕事が延びてしまって…」

 野田は鬱蒼とした顔を薄暗い中でちらちらと覗かせた。

「それで…」

 神山と麗紅は待ちくたびれ、両腕を組み不動のごとく佇んでいた。

「えっ?」野田はすっとぼけた顔で目と口を開いていた。

 麗紅はその顔に吹き出し笑いをこらえていた。

「えっ、じゃねーよ…、人気のないこんなところを指定しておいて、ここなら話せるんだろ。大臣の賄賂問題をあんたが書いた記事の捏造についてだ。おかげでこれだけの騒動に発展した。おかしいのはそれを否定しない大臣だ。謝罪会見したのはどういうことだ。納得しているわけではないだろ。あんたを動かしているのは誰だ? いったいなにを目的にしているのか明瞭ではない。誰に命じられてやったんだ。おまえのような使われるだけで終わる側の者じゃできない芸当だ。どうだ、ちがっているか?」神山は捲し立てた。

「そ、そうだな、たしかにあんたの言う通りだ」野田は静かな口調で認めた。

「あなたのバックに誰がいるの?」麗紅が続けて尋ねた。

「あぁ、そうだな…、う~んと…」考える野田だったが、その間数秒だった。だが、とても長く感じさせる時間だった。

「その人なら、いまここに来ているよ」野田の鋭い眼光が薄暗い倉庫のなかで光った。

 暗闇が広がる中で野田との対話に気をとられてしまい、周囲の気配を警戒していた神山と麗紅だったが、相手はその気配の消し方が素人ではなかったようだ。

 気づかなかった。五人いる。神山と麗紅の背後に二人ずつ肩をつかもうと、すでに手のひら一つ分まで迫っていた。

 神山と麗紅は口と鼻を布で塞がれた。いやな臭いがした。薬品の臭いだ。背後の二人に動きを封じられ薬品の臭いによって二人は気を失ってしまった。

 前方には野田ともう一人の人影が現われた。暗闇に隠れてその顔は見えなかった。震える目蓋をもちあげながら瞳を滾らせるも、ついに意識が遠のいていった。

 目を覚ますとそこには驚いたことにテレビ画面でときたま映りこむ男が立っていた。

「お目覚めかな」ゆっくりと話す男と目があった。

 よろず 和暁かずあき、35歳で政治家の秘書だ。今話題の豊永大臣の側近ともいわれている。何度もニュースで拝見したことがある高身長の色男だ。

「そうか、そういうことか」神山の推理がはずれていた。

 豊永本人が手をくだしてなんらかの策略のために野田を言い包めていると思っていた。

「なにこれ、どういうこと?」麗紅も無事に意識を取りもどし目覚めてこの状況に混乱していた。

 神山と麗紅は椅子に座らされ両手を後ろ手に縛られていた。すぐ脇には背後から羽交締めにした男たちが囲んでいた。

「豊永大臣を失脚するために収賄疑惑の捏造報道をした。それは万秘書、あなたが大臣に謝罪会見をさせて大根芝居を打たせた。なにもしらずに捏造された情報だけが一人歩きして大臣は否応なしに会見に出るしかなかった。秘書のあなたを信じて…、騙されていることも知らずに」

 横向きに立つ万秘書は、フッと鼻で笑った。その横顔を見ると神山は腹が立った。

「それがいったいなんになるの」麗紅は神山の考えに遠く及ばなかった。

「賄賂の事実はどうあれ、その金が本当に存在していたのかどうか、会見を皮切りにうやむやにして事実を闇に葬ろうしている」

 万秘書は目を細め鼻を高くした。神山はその高慢な鼻っぱしらをへし折りたいが、いまできることは声を発することだけだ。

「あなたがすべて手をくだし野田記者の捏造記事がテレビを通じて国民にとどけた。その政治スクープは国民の怒りを買い、ついには暴徒化の一歩手前まで発展している。いまにも大臣を狙う者が闇から這い出してきそうだ。警察はそれを抑制するのに緊迫状態らしい。すべてはあんたの企みというわけだ」

「ほう、さすが探偵さんだ。裏の情報網にお詳しいことで…」いやらしく微笑む万秘書の顔が憎たらしくてしかたがない。

「賄賂金は一千万円だったな…、これを引き換えにあんたは豊永大臣を餌として報道カメラの前で躍らせた。大臣が報道で叩かれることになって評判はがた落ち、収賄疑惑に拍車をかけて事実そのものを闇に葬るのが筋書だ」

「この秘書は大臣を裏切るのが目的なの?」麗紅は驚いていた。

「そうだ」神山はうなずいた。

 

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あまつさえ、裏を探る者! 第1話第2話第3話第4話

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