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ミステリー

あまつさえ、裏を探る者!4(全4話)

   

海江田刑事とこそ泥の黄櫻が加わり、逃走した大臣秘書の万と野田らを追走する。

探偵社で待機している秀吾のサポートもあり新情報を得た一行は豊永大臣邸宅へと急いだ。

そして大臣と対面した神山の謎解きが始まる。

収賄疑惑の裏に起きた本当の真相を語り始める──

 

 海江田刑事は逃走した万秘書たちを追走することをあきらめたわけではない。

 黄桜は揉め事にはかかわりたくないコソ泥らしい性分でいやいや海江田が運転する自動車に乗車していた。麗紅はウキウキだった。女というのは追っても逃げる側でも危機感を感じず楽しむ生き物だ。さっきまで捕縛され命の危機にあっていたというのに。

 神山は静かに黙っていた。ある矛盾に気づいた。神山の推理はあながちはずれていなかった。

「シナリオを書いていたのは豊永大臣だ。そうだろ秀吾…」海江田の耳にはイヤホンがささっていた。携帯電話を通話状態にして状況を逐一報せていた。

「GPSで追跡しています。一味は車で逃げています。方角からして大臣のところですね」秀吾がインカムをつけた状態で応えた。車内にも声が広がった。

 海江田は倉庫に踏みこむまえに万一味の車に発信器をとりつけた。

「あまつさえ、万秘書が隠ぺいした本当の理由をあかるみにする」神山が言った。

 海江田はうなずき、それぞれの顔がひきしまった。
 
 

 広い屋敷を構えている大臣邸宅。突然の訪問者に豊永大臣が玄関口に現れた。

「秘書の万秘書や野田というフリーの記者が来ていますよね?」海江田が警察手帳をみせながら言った。

「なんの用だ?」」大臣の贅を尽くした余った頬の肉が震えた。

「収賄疑惑の件です。万氏が企てていたこと、その狙いがあなたの失墜にあったのです」海江田は続けて言った。

「なんだと?」眉根を寄せる大臣は玄関から室内へと視線を流した。

「いるのね」麗紅が口を挟んだ。

 神山も気づいた。まだ大臣はかばう気だと。黄桜は無関係を装っていた。麗紅の背後で石の上に座りこんでいた。

「証拠はあがってます。引き渡してください。あなたは一番信頼における人物に裏切られているんです」

 神山は大臣を説得させるように念を押す。この堅物の心をこじ開けるキーワードがまだ足りないようだ。

「賄賂の一千万円は万の手中にある」神山の口上は探偵そのものの推理で語る。「大臣は無関係だ。なのに捏造された報道になぜのったんですか? あれは大嘘のはずだ」

「たしかにあれは嘘だ。だがそれは…」そこで口を噤む大臣だった。

「大臣が口を噤む理由、それはもっとでかい嘘を隠ぺいするためでしょ?」

 神山は真相に踏みこむ。

 大臣の肉厚の目蓋が開き瞳孔がぶれていた。

「賄賂疑惑なんて政治家ならどうにでもなる。それより、いま抱えている問題の方が大事だ。政治家失脚どころの話ではない」

 神山は携帯電話の画面をみせた。そこには秀吾に調べさせていたある事実が記されている。

「今回のことで影響をうけた一般人が犠牲になっている」

「…」大臣に言葉はなかった。明らかな動揺の色が顔に浮かんでいた。認めている証拠でもある。

「このひとは都内に住む大学生だ。先日転落死したというニュースで報じられていた日浦裕哉。だが、真相はこうだ。事故死にみせかけてあなたたちが殺した」

 日浦は崇拝していた大臣に裏切られたと一方的に思いこみ、精神面を切り裂かされ刃をむけた。手を伸ばせば大臣の胸や喉にとどくが阻むように立ちはだかるのは、万とボディーガードの四名が玄関より中へ侵入させまいと突き飛ばした。

「その際、後頭部を庭の石の角にぶつけた。当たり所が悪く脳挫傷による血種。救急治療をすれば助かるのに、その助かる命を見殺しにした。ちょうど史朗さんがいま座っている石だ」神山が指を指した。

 背後で、ひぃー、と黄桜は悲鳴をあげて石に腰をかけていたが、転げまわった。

「血液がついた石は川へ投棄でもしたか、そこの石もすりかえている。色が新しい。だが完全に血痕は拭えてはいない。鑑識が調べれば石の周辺から学生の血液がみつかると思うが」

 神山がそこまで言うと、「調べようか」と海江田が続いた。

(1)

 大臣は顔を背けた。収賄容疑の会見を開いたのは注目を浴びるネタに世間は目を向け、本来の事件にスポットライトを浴びさせない。その裏では青年の死が転落死と報道された。思惑通りの狙いで罪の大小によって決着をつけようとした。

 警察は殺人と疑っていたが、犯人が浮かび上がらないため迷走していた。

 日浦は熱狂的な豊永派だった。収賄疑惑に怒り大臣のところに行くと、ひと悶着をひきおこし転落死の事実を、海江田は完全否定し疑っていた。その背景に関わっているのは大臣家であると睨んでいた。だが、海江田の上司たち警察は事故で決定づけていた。

 海江田は自分の見立てが正しいはず、と信じていた。だから独自に、いつものように身勝手な判断で、裏を探るよう探偵に調査依頼をした。

「野田が捏造したのも、この事実を隠ぺいするため」麗紅がさらに問い詰める。

 大臣にとっても万を失うわけにはいかない。右腕として傍に置いておきたかった。

「私なりのシナリオだったが、その裏には万の暗躍が潜んでいたのか」自嘲するように大臣は静かに笑った。「事実を掴まれたのならもはや隠し通せまい」

「潔いですね。さすが大臣だ。立派です」神山はその不動な態度と正義心に称賛した。

「万!」豊永大臣は家屋内に呼びかけた。姿を見せた万たちに命じた。「終わりだ。私もおまえも―」

 万は首をたれた。ボディーガードたち、野田も含め観念した。

 麗紅はじっと屋敷内にあるいくつかの防犯カメラを睨む。

 神山は言った。「大臣宅には防犯カメラがある。秀吾がセキュリティ会社にハッキングしてこの敷地内の映像を解析した。そしたらスクープ映像がとれた」

「セキュリティ会社はなんて?」

「買収されたんだろ、もっともそれもすぐにあきらかになる。ここからは警察の動きは早い。芋づる式にみんな逮捕だ」神山は大笑いした。

「でも、セキュリティ会社にハッキングはまずくない?」麗紅が案じた。腕を組み肩の荷がおろせない不安は拭えない。

 法律ギリギリの調査を超えている。

「心配するな、それはこちらでなんとかする。それに秀吾は証拠となるような足跡を残すヘマはしない」海江田は微笑んだ。

「そういうことだ、麗紅。そのために依頼人が刑事で助かる。ギリギリを超えることも厭わず、危険に踏みこめる。こういうときじゃなきゃ、できない調査だ」神山は少年のような笑顔でこたえた。

 麗紅はいつもの華やかな顔をむけた。

「一件落着、落着──」海江田はご満悦だった。

(2)

 
 事務所の電話が鳴った。麗紅は出掛けていた。秀吾はまだ出社する時間ではない。黄櫻はどこかでふらついて気まぐれにくる。隣の事務室には神山が一人だけいるはずだが、なぜか一向に電話に出ない。

「はい、アマツ探偵事務所です。ご依頼ですか?」

 代表の紗江は明るく落ち着きのある物腰やわらかい声質で応じた。

「えっ、ええ、そうですね。わかりました。いま事務室にいると思うので待ってくださいね」

 紗江は通話を保留にした。

「神山くん、彼女からお電話よ。デートの約束を代表室の電話番号にしないようにしてくれるかしら?」

 代表室の電話番号と事務室の電話番号は異なる。代表室の電話番号は関係者のみにしか知らせていない。要するに神山が以前に名刺を手渡していた。そこには探偵社の連絡手段のすべてを教えていたのだ。電話、メール、SNS、といった方法だ。

 神山が好意ある人物と繋がる確立を上げるためだ。

「デート? 彼女って、おれにはいないけど…」

 神山はソファに深く腰を据えてテレビを観ていた。

「いいから出なさい。あなたにとって待望の相手よ」

「は、はい…」

 あっ気にとられながらも電話に出る神山だった。

 女の声が電話口から囁かれる。神山はその声に聞き覚えがあった。そしてハッと息を呑み一気に耳がこわばった。

「そうです。神山でっすー」キザったらしく応じた。「月城アナから電話なんて嬉しいですね──。ええ、声でわかりますとも…どうされましたか?」

 月城アナはひと言お礼を伝えにわざわざ電話をしてきた。豊永大臣とその一派が起こしたスクープを報せたからだ。おかげで月城はニュースで事実を報じられたことに感謝していた。

 豊永大臣は失脚。日浦殺害の罪で万やボディーガードが逮捕された。野田も世間を騒がせた捏造疑惑で書類送検の予定だが、いずれ立件されるだろう。

「いえ、かまわないですよ。月城アナのためなら、なっはっはっはっはっは!」笑い声を張り上げた。

 そして、いつぞやの約束を果たすために連絡してきた。

 月城の声にやや緊張感がふくまれていた。男性を誘うのには慣れていないようだ。

 耳の置くで反響していた。神山は心拍数が沸騰した。「それってまさか…」

“お食事の誘いです。まだ気が変わっていなければご馳走します”。

 やまびこのように耳から脳へと反響していた。

「はい、はーい、ぜひとも、ご招待にあずかります」

 神山は約束を忘れていた。というより真に受けていなかった。どんな約束をしてもツケとかいわれ流されると思っていた。

 彼女はその振る舞いとちがい真面目だった。もしくは貸しをつくりたくないというプライドのせいだろうか。なにはともあれ食事デートにこぎつけたのはラッキーだ。

「では、のちほど」ディナーの約束をした。

 神山は喜びのあまりくるくると回る椅子で回転していた。これほど嬉しいことはない。

「探偵なんてやめちまうか」

「ダメよ」麗紅が眼前に仁王立ちで現れた。

「いつからいたんだ?」

「依頼は次々きてますから」秀吾も自席に座りパソコン画面と睨みあっていた。

「デートの約束なんて華やかだね」黄桜もこそこそしながら現れていた。

 いつのまにか探偵社のメンバーがそろっていた。そして一番めんどうくさいやつも。

「おう、ご苦労さん探偵さんたち報酬をもってきたぞ」海江田刑事が気をよくして現れた。「完ぺきな事件の解決だ。ありがとう」

「なんなんだみんなして、急に現れて──」

「邪険にするなよ。幼馴染のおれにはよ」海江田が神山の首に腕をまわしてフレンドリーなところをほかのメンバーにもみせつけた。

 麗紅や秀吾に黄櫻は神山のディナーデートに茶々をいれていた。それを扉のところに立つ紗江は優しい顔でみつめていた。

「おれの恋路を邪魔するなぁー!」
 
 

 神山はこんなめんどくせぇやつらと共に、日々社会の裏を探っている。
 
 

(了)

 

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あまつさえ、裏を探る者! 第1話第2話第3話第4話

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