「雅代、死す」との連絡を受けた明彦は、絹代に付き添われ舞鶴に向った。
そして、病院の霊安室で「再会」した母、雅代は顔全体を包帯に覆われ、僅かに左の目と頬が見える程度、これがお母さんなのか、堪えていた明彦は「お母さん、何か言ってよ!」と声を出して泣き出してまった。
当地で荼毘に付された雅代の遺骨を抱いて岐阜の源正寺に戻った明彦は尊敬する児島慶海に通夜、葬儀に導師をお願いした。
「聞いた話だけど、お妾さんだったそうよ。」
通夜の夜、児島慶海の妻、京子が絹代に囁いたが、絹代はにわかには信じられなかった。
「知っていたならば、ご住職はどうして何もしてくれないの!」
絹代は児島の姿勢に不満を感じたが、彼は「これ以上の愚行、悪行は許さない」と決意していた。
永訣
「朝井明彦さんですか?」
「はい、明彦です。」
「遠いところ、どうも。皆川興業の佐々木です。」
明け方、東京の金山から連絡をもらった明彦は、絹代に付き添われて岐阜駅から電車を乗り継ぎ、午後2時前、舞鶴駅に到着、迎えに来ていた皆川興業舞鶴営業所の車に乗せられた。
「昨夜はすごく冷えて、その上、雨が降ってましたから、奥様は急いで道路を渡ろうとしたんだと思います。そこにトラックが突っ込んできて・・」
病院までの車中、事故時の様子を聞かされたが、明彦は何も頭に入らなかった。
「お母さん・・」
外はどんよりと曇り、今にも降りだしそうな天気。絹代はずっと彼の手を握り締めていたが、冷たいままだった。
病院では事務長と看護師長が待っていた。
「息子さん?」
「はい、朝井明彦です。」
「辛いだろうけど、しっかりしてね。」
事故家族を迎えることなど慣れている筈の看護師長でさえも顔に辛さが現れている。
「さあ、こちらです。」
彼女に案内され、霊安室に向かう長い廊下。
「高校に合格したら、先生(児島慶海)に許可もらって、お母さんに会いに行ってくる。」
「ご住職(児島慶海)もきっと許してくれるわ。」
「うん、後、3ケ月だから、僕、頑張るよ。」
先日もこんな会話を交わしたばかりなのに、こんなことになるなんて・・付き添う絹代は明彦に掛ける言葉が見つからなかった。
実話との事ですが悲惨な出来事が起こり読んでいても心が痛みます、ハッピーエンドになる事を祈りながらこれからも読み続けていきたいと思います。