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現代ドラマ

彼女の言い分に応えて3(全3話)

   

横浜界隈を練り歩く二人。斗真のエスコートでもスピカはそれなりに楽しんでいた。

ファンらしき女子に声をかけられるも変装したスピカは口調を変えて交わす。

人災が一番恐いが安堵したのも束の間。ついに迫りくる黒い影。そして女性の声が飛び込んでいた。

それはマネージャーだった。スピカを救出するためボディーガードたちが斗真に迫る。

どうやら誘拐犯と勘ちがいされて斗真は──
 
 

クライマックス

 

 日本を満喫したいスピカを翌日案内することになった。寝不足の斗真は浮かない顔だった。とりあえず朝飯代わりに横浜なら中華街だろうと誘った。

「ジャパニーズ中華? ニューヨークにだってチャイニーズストリートあるわよ」

 大笑いしている大女優は、コートの中に口紅とファンデーションのコンパクトを持ち歩いていた。本日もばっちりメイクは整っていた。タバコの携帯用灰皿のような感覚だな、と斗真は思った。

 簡単な化粧でも目立ち過ぎ。通行人がやはり振り返る。日本人風に変装しているのだろうけど明らかなにスタイルやオーラがちがいすぎる。女性であるのは外見でわかるが、背格好や顔立ちの骨格が明らかに日本人離れしている。

 それだけでアウトだ。

「ダメだ、ぜったいに気づかれる。SPだって近くにいるかも…、おれが変装しているスピカに気づいたんだ、若い女子の嗅覚は鋭い。昨日だって噂されていたんだ。今日もきっと気づかれる…」

 ひやひやしている斗真は落ち着きがなかった。周囲に意識を向けて警戒心を高めた。

「豚まん食べたい」

 無邪気に言い出す女優は恐いもの知らず。

「はいはい…」

 これはある意味デートだが、これだけ落ち着かないデートはない。むしろできたとしても断る。周囲の視線を感じるのが耐えられないからだ。

「あのー」とうとう近づいてきた。勇気ある女子中学生三人組だ。

「なにかしら?」女はにこやかにこたえた。

 彼女たちとスピカの身長の高低差が尋常ではない。電柱と杖だ。

「女優さんですか?」

「モデルさんじゃない?」

「シンガーかも…」

 するとスピカは手を左右に振った。「一般人ネェー」

 なぜ、中国人風な口調を選んだのか、だが効果覿面。女子中学生三人組は勘違いという態度で去っていった。

「やるじゃん。とりあえず災難は去った。人災がいちばん危うい立場だ。バレてはまずいからな」斗真の心拍数は上がりっぱなしだった。

 手のひらサイズの豚まんを二個も食べてしまったスピカ。

「太るぞ」斗真はあきれながら指摘した。

「ワタシ、そう簡単に太らないの。むしろ食べないと…、すぐにガス欠よ」

 たくましい女だ。

 自由奔放に楽しんでいると斗真まで時間の感覚が麻痺する。数時間なんてあっというまに過ぎていた。

 ハリウッド女優といっても楽しいことに夢中になると、ただの乙女だった。張り詰めた環境に身を置いて切磋琢磨している異質な日常のせいで、彼女の心や精神は崩壊の毒に蝕まれているのかもしれない。顔に出ないのが普段からも気をつけて、だれかに見られていることを意識してか、片時も素顔をみせないのかもしれない。

 斗真と一緒にいるときも女優として自分を演じているのかもしれない。

 楽しい一時もチェックメイトのときがきた。

「やべ、あれって、そうだよな?」

 斗真の瞳に映りこんだのは黒服の男たちだった。

 スピカは素っとん狂な声で、オーマイゴッ、と答えた。

「マネージャーも、いる、オーノー」

 声質からテンションの低さがつたわってきた。

「スピカ! 待ちなさい。そこのボーイ、止まりなさい! オネガイ!」

 斗真がボーイと言われてショックを受けていた。それほど子どもではない。

 ハダル・レンジア、35歳。スピカの女性マネージャーだ。スピカほどではないが、スタイル抜群のスレンダー美女だ。アメリカ人だが日本好きで、日本語が堪能。留学もしていたという。

 

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彼女の言い分に応えて 第1話第2話第3話

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