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青春 / 成長

君が笑えば、僕は君とともに笑う。2(全8話)

   

 颯哉は母親から澄麗との婚姻の話を耳に入れて浮かれていた。

 澄麗の家は温泉旅館をし、手伝うことにいつのまにかなっていることに颯哉は顔を曇らせていた。

 逆玉になると親友の壮太にからかわれた。怪我を理由にサッカー部を辞めた颯哉は高校生活をなんとなく過ごすだけだった。

 夏休み前に颯哉の恩師でもある辺見と若宮先輩が帰郷していることを聞き、助言を求めたいが会いにいくことはなかった。

 しかし──

 

 まだら雲が大きく空を覆ってしまうと太陽の光はカーテンで遮られたように大地を薄暗くさせる。それは何か不吉な前兆を案じさせる雲として人々に暗雲を抱かせていた。さらに雲の層が厚くなると積乱雲を伴い悪天候ともなる。

 颯哉は誰よりも早く察してしまう。まるで自分がそういう存在をこの空に投影しているかのようにだ。

 予期したとおりこの日の朝は小雨が降っていた。さらに天気予報では午後からドシャ降りの雨であると伝えていた。

 伊香保温泉近くにある“群雲うどん茶屋”を営む颯哉の両親だが、悪天候の日は客入りは減る。売り上げに大きく関わり、両親のため息が重くなる。

 群雲むらくも 誠司せいじ。四十八歳で水沢うどんを提供する亭主で颯哉の父親。

 群雲むらくも みず穂みずほ。四十六歳で父親と二人三脚で経営を支えている。特にお品書きにもある七福茶と味噌まんじゅうを作るが、これだけでも定評がある。

 葉山温泉旅館と契約を締結し水沢うどんを提供している。また颯哉も労働の一役をかっているのだ。

「颯哉、起きたかい?」

 母親の金切り声が朝から耳に響く。

「起きてるよ、朝から勘弁してくれよ、頭痛くなる」颯哉は寝起きだった。

「もう七時半過ぎてるよ、早くしな。それときょう学校終わったら“うどん”をもっていって、葉山さんのところね」母はせかせかと動きながら話していた。

「昨夜のニュースで、きょうの午後には雨がひどくなるっていってたけど…」

「そうなの? じゃぁ、お母さんが早めに行っておくけど…、あんたスミちゃんのとこでアルバイトするって本当なん?」

 母は澄麗のことを幼少の頃から知っているから“スミちゃん”と愛称で呼んでいる。

「はぁ!」颯哉は寝耳に水だった。「なんだそれ、しらない…」

「まぁ、お母さんとしてはスミちゃんと将来的に、うふふふん、そりゃぁ、ちいさいころの約束だからって、どうかなとは思うけど…うふふふん」

 我が子にむけて目を細め気色の悪い笑い声で、何かを歯に衣着せぬ物言いがイラつく。

「あのな、澄麗とのけっ……、澄麗のことをいってんのか?」

 颯哉はあやうく結婚の二文字を口にするところだったが、寸前で恥ずかしくなった。

「そうよ、もうみんなスミちゃんがプロポーズしたってひろまってるよ」

 颯哉は背を伸ばし驚いていた。

 母はまたしても肩で笑いをこらえて我が息子の狼狽する姿を見据えていた。母はまるで山に棲む妖怪のようにいじわるくなっていた。

 家を出るとき小雨がやはり降っていた。

「このくらいならいいか、雨合羽を着ていくのも面倒だしな…」

 バッグの中にその雨合羽と折り畳み傘がある。高校までは山を下りて片道九キロはかかる。自転車通学をしているから通える距離だ。田舎では当然の交通手段である。

 もう見慣れてしまったが、見渡す限り山々…、360度、山しかない。

「こんなところ出ていきたい…」

 颯哉はいつしかそんな野心が芽生えていた。というよりただここから出ていきたい。山というだだっ広い壁に囲われているせいで、気づかないかもしれないが、田舎の牢獄にひとしいだろう。もっと世界は広い。その広さを颯哉はまだ実感していない。

 もしこの世界に平等性があるのなら、生まれる場所を選びたい。こんな田舎で生まれようとは思わない。たとえばコンビニエンスストアまで徒歩30秒のところに住みたいものだ。颯哉が住んでいる自宅からでは車で二十分かかる。

 高校の途中や付近でもコンビニエンスストアというものをみたことはない。観光客がこの山脈の一帯を上がる手前でおそらくコンビニエンスストアという輝かしい日常生活のすべてがそろっているちいさな店舗に寄ってから何もない山へ突入してくるのだ。

 それほどの田舎に、都会の者や物好きが入りこんできてはさ迷っているという話を親たちから愚痴のようにきかされていた。

 颯哉は、『僕が都会で生まれたらこんな山には一度だって訪れたいとは思わない』と罵りの声を発していた。

 両親は自分たちの住んでいる場所、商いをしている場所をけなされて怒るわけでもなく、悲しむわけではなく、ただ大笑いしていた。

「都会に住めば観光客の気持ちがなにを抱いて来ているかもわかるってもんだ」

 父親がめずらしく颯哉になにかだいじなことを示唆するように言った。

 都会と田舎、どちらがいいかと天秤にかけたら都会に決まっている。なのに、大人たちはそうはみていないのが颯哉には理解ができなかった。

 

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君が笑えば、僕は君とともに笑う。 第1話第2話第3話

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