第一戦に勝利した笹田の前にたちはだかったのは、佳代だった。笹田は、佳代の圧倒的な足技の前に、第一戦とは打って変わって一方的に攻め込まれていく。絶望的な激闘が続く中、それでも笹田は試合を諦めることはなかった……
「ポイント十対三、勝者、笹田!」
レフェリーが叫ぶと、会場の空気が歓喜で揺れた。
笹田を称える声が、場内の至るところから湧きあがり、一つの渦になって選手たちを包み込む。
リングサイドに控えていた清水の皮膚は、痺れるような熱気に粟立っていた。
「強いな……笹田さん、あんなに技が切れたのか」
「へへ、私たちの師範ですからね」
清水の独り言に、サラが割り込んできた。試合前はかなり緊張していた様子だったが、笹田が解消してくれたことで、ずいぶんほぐれたようだ。
清水は、そんなサラの姿に、頼もしさと言うよりは安心の感情を抱き、リング上で油断なく立っている笹田を見やった。
「昔は、手の付けられない悪人だったそうです。マフィアの最高幹部の一人だったんですから、当然なのかも知れませんけど」
サラが、ぽつりと呟いた。
「想像もできませんけどね。師範がこうなったのも、私たちと出会ってからだって。ねえ、清水さん。人って、守るものができれば、変われるのかな。こんな私でも」
「変われると信じたいですね、俺は」
清水は、自分のはっきりしない物言いを、不満に感じた。
何故、「変われる」と断言することができないのか。家庭を持っているわけでも無いからか。
それとも、自分の仕事や故郷に愛着を抱いていないのだろうか。