「こんなのっ!」
突然、佳代が、叫びを上げ、もたれかかっていた木に向かって回し蹴りを放った。
砲弾が直撃したような物凄い音が響き渡る。
しかし、生物的限界を超えて強化されている緑化サハラの樹木はびくともしない。
「こんなのっ、絶対に認めない。許さないんだから! 倒す! あいつを倒すまで、私は鍛え続けてやるんだ」
「佳代様……」
新月は、かけるべき言葉を見失った。
格闘や武術に身を置く人間としては、天才の呼び声が高い自分の主人が、武芸の上達に意欲を燃やしてくれるのは嬉しい。
しかし、その一方で、危険と隣り合わせの世界にはいて欲しくないという感情もある。
「ねえ、新月」
佳代がぽつりと呟いた。
確かな意思を感じさせる、そんな声だった。
「私、これから、ガードをしないことにするわ。感覚と反射を徹底的に鍛えなきゃ、あいつの抜き手には対応できないもの。まあ、今後ガードを上げるとしたら、同格以上の相手に限定ね。それと、体力と筋力も鍛えなきゃならないんだけど、それには良いコーチが必要ね。お願いできるかしら」
「お任せ下さい、佳代様」
新月は、反射的に応じた。
主従としての義務感はもちろんだが、それ以上に、敗北感を半ば打ち消すほどのわくわくした感情が、新月に即断を促していた。
才能の量と能力の伸びしろに関しては、「家臣衆」の中でも、佳代に並ぶものはいない。
性別の枠を超えた「最強」が誕生する予感に、新月は胸を震わせていた。
マスクエリア 第五覆面特区 最終章 流星の輝き(10)
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