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恋愛 / ラブ・ストーリー

LOTUS special 〜Birdie in Boots〜 <2>

   2010年12月9日  

 それはとてもありがたい申し出でしたが、真理は小さくかぶりを振って断りました。父親も自分も、要するに、借金取りに追われる身になってしまったのです。良家の令嬢が集まる女学院に、まんがいちにでも迷惑がかかったらいけないと心配したのでした。
「平気、ひとりでなんとかするよ。もともと卒業したら、ひとりでやって行くつもりだったんだ」
「その気持ちはわからなくもないけれど、大切な教え子を、こんなところで放っておくわけにはいかないわ。どうしても寄宿舎に来るのが難しいなら、あたしがきちんとした宿に案内してあげる。そこで、せめて今夜くらいは、心と体をしっかり休めなさい」
 女教師の優しい言葉が、真理の胸に染みていきます。
 本当の本当は、この先のことが不安でたまらなかった真理は、小さな子供のようにこくりとうなずきました。
「そうして、そうね……この際だからどこか景色の良いところに、小旅行でもしていらっしゃい。そうして気持ちが落ち着いたら、あたしに連絡してちょうだい。この先のことを、改めてゆっくり考えましょう。あたしで良ければ、力になるわ」
「先生…………」
「わかった?」
「うん。ありがと、先生」
 真理は、嬉しそうに礼を述べました。
 幸先が良いとまでは言えないかもしれませんが、当面の目的と、今夜の寝床が決まったのです。ひとりでやって行くことの難しさと寂しさを実感しながらも、まずはひと安心でした。一方の女教師も、優しい微笑みを浮かべてうなずき返すと、いずれ劣らぬ問題児たちを連れて、東京駅をあとにしました。
「ところで先生、どこに行くの? アタシ、あんまり高いところは困るんだけどな」
「大丈夫よ、心配しないで。ああ、ほら、見えてきたわ」
 女教師が指さす先には、こぢんまりとした洋館風のホテルがありました。かつての級友が、西洋式ホテルの経営者に嫁いだことを思い出した女教師は、その縁を頼ることにしたのです。やがて女教師は、真理たちをホテルの門前に残してひとり受付に向かい、今はホテルの女主人として奮闘している旧友に、わけを話しました。
(そういえば……ずいぶん静かだな、この文鳥)
 もう眠ってしまったのか、竹かごごと風呂敷に包まれた文鳥は、あれからひとことも発しません。もしや死んでしまったのではないかと案じるなか、女教師とその旧友がホテルの玄関を大きく開け、真理を迎え入れました。

「さ・て・と」
 洋館風ホテルの一室に、タダ同然の低料金で泊めてもらえることになった真理は、こざっぱりしたベッドのふちに腰掛けて、ほっとひと息つきました。お風呂に入って体が温まったせいか、少し気分が落ち着いたようでした。
「ひとり旅か……別にどこだっていいんだけど、とりあえず日本海でも見に行くとして。問題はコレだよね」
 真理はベッドの隣に置かれた、小さな丸テーブルに目をやりました。テーブルの足元には手提げ鞄が、上にはガラス製の水差しや灰皿のほかに、ちりめんの風呂敷に包まれた竹かごがあります。真理が視線を向けたのは、もちろん、風呂敷包みのほうでした。
「妙に大人しいけど……まさか死んじゃったワケじゃないよね?」
 どうせ飼うなら、大好きな絵本に描かれているような美しい虎猫が良かったのですが、受け取ってしまった以上、当座の面倒は見てやらなくてはいけません。真理は「面倒なことになっちゃったな」とつぶやきつつ、そっと結び目をほどいてみました。
「あ、生きてる」
 結び目をほどくや、竹かごの片隅で大人しくしていた文鳥が甲高い声でさえずりました。真理は竹かごに顔を近づけて、なかにいる茶色の文鳥をつぶさに観察し、またもやため息をつきました。

 

-恋愛 / ラブ・ストーリー

シリーズリンク

LOTUS special 〜Birdie in Boots〜<全6話> 第1話第2話第3話第4話第5話第6話

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