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恋愛 / ラブ・ストーリー

LOTUS special 〜Birdie in Boots〜 <2>

   2010年12月9日  

「すっごく珍しいっていうから、もっとキレイな鳥だと思ったのに。赤い目はキレイだけど、なーんかパッとしないな。スズメみたい。模様のないスズメ。スズメ文鳥って呼んでやろうか」
 そんな真理のひとり言が聞こえたのか、文鳥はいきなり竹かごに内側からしがみつくと、猛烈な勢いで鳴きはじめました。
「ちょっと、うるさくしないでよ。こっちだって、好きでアンタを引き取ったワケじゃないんだからね! アタシはホントは」
 真理は手提げ鞄から絵本を取り出すと、表紙に描かれた虎縞の猫を指さし、本当はこういう猫が欲しかったのだと言いました。その瞬間、文鳥がさらに激しく鳴き出しました。
「もう、ホントうるっさいな。アタシはね、どうせ飼うんだったら、こういう猫が欲しかったの。アンタみたいなヘンな鳥じゃなくて、きれいで賢い虎猫が欲しかったんだから!」
 真理がわめき立てれば立てるほど、文鳥の鳴き声もますます激しくなっていきます。真理は本当に、憎らしく腹立たしい気分になってきました。
「ああもう! アンタみたいなうるさいだけの役立たず、もらわなきゃ良かった。明日、横濱の南京街の雑貨屋に持って行って、カゴごと返品してやる!」
 真理がそう叫ぶや、それまで甲高い声で鳴き続けていた文鳥が、ピタリと鳴きやみました。それと同時に、真理にも冷静さが戻ってきました。
「…………バカみたい。鳥に人間の言葉が通じるわけないじゃん。大体、これ以上うるさくしたら、ホテルを追い出されちゃうよ」
 今の騒ぎが、隣室で休んでいる客人の迷惑になっていないことを祈りつつ、真理は丸テーブルの下にしゃがみ込んで、絵本をしまいました。そうして、大きなため息をつきました。
「まあ……通じなくても、ちょっと言い過ぎたかな。こんなに鳴くのって、おなかが空いてるってことなのかもしれないし」
 文鳥の不機嫌そうな鳴き声の理由を考えて、真理は鞄のなかを漁りました。夕食が中途半端だったため、真理もちょっぴり空腹です。やがて出てきたのは、家から持ってきた真っ赤なリンゴがひとつと、板チョコレートが一枚でした。このチョコレートは、寄宿舎から脱走した後輩の少女が、どういう風の吹き回しなのか、「おせんべつ」と言ってくれたものでした。
「えーと、たしかチョコレートって、栄養ばっちりなお菓子なんだよね。もったいないけど、ひとかけやるか」
 真理は板チョコレートを割ると、小さな長方形のひとかけらを、竹ひごの隙間からなかに差し入れました。するとどうでしょう、文鳥がまるでチョコレートを恐れるかのように、狭い竹かごのなかでバタバタと逃げ惑いはじめました。その暴れっぷりがあまりにすさまじかったため、真理は慌てて竹かごを持ち上げ、出入り口に手を掛けました。
「うわっ」
 その途端、淡い茶色の文鳥が、目にも止まらぬ速さで竹かごから飛び出してきました。そうして壁に激突する寸前でクルリととんぼ返りを決めると、なんと真理そっくりの姿になって床に降り立ちました。
「ちょおっとアンタ!!!!! アタシを殺す気ッッッ?!」
「な…………!」
 真理は絶句して、声も出ませんでした。
 なぜって、目の前に、自分そっくりの人間が立っているのです。
まるで大きな姿見が現れたようでしたが、良く良く見ると、鏡に映る自分とは、ところどころ違っていました。まるで双子のようにそっくりなのですが、相手の髪の毛は明るい栗色で、瞳はルビーのように燃える赤、目を凝らせば、泣きぼくろの位置も逆なのです。
 それより何より、相手の胸には、なだらかな「ふくらみ」がまったくありませんでした。背丈も、女学院一の「のっぽさん」だった真理より少し高く、肩幅も広いようです。つまり、真理はどんなに少年のような格好をしていても「少女」の範疇でしたが、目の前の相手はどこからどう見ても、間違いなく「青年」なのでした。

 

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シリーズリンク

LOTUS special 〜Birdie in Boots〜<全6話> 第1話第2話第3話第4話第5話第6話

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