どうやって犯行現場へ凶器を持ち込めたのだろうか。そして、その凶器は、どこへ消えてしまったのだろうか。
次の日、森川紗智子は精力的に行動した。
午前中は、室生犀星記念館や泉鏡花記念館、それに石川近代文学館を見学した。
森川紗智子も小説家の端くれである。
文学関係の施設を表敬訪問したのだ。
意外に感銘を受けたのは泉鏡花記念館であった。
それほど大きくない建物ではあるが、手際よく泉鏡花の事績がまとめられている。
それで、泉鏡花の文学が理解できたのである。
森川紗智子が高校生の頃は、泉鏡花が好き、ということは鼻持ちならない文学少女、と同義であった。
森川紗智子は、看護師を目指していたほどであるから、どちらかと言えば理系であった。
小説を貪り読む文系ではなかったのだ。
泉鏡花も、国語の教科書で名前だけは知っていたが、自分とは関係ない世界の人だと思っていたのである。
だが――、運命と時世時節に翻弄されて小説を書くようになってしまった。
文学の一端に足を入れるようになってしまったのである。
そして現在。
泉鏡花が理解できるようになったのだ。
「幻想小説……、面白いかもしれない……」
しかし、それを結実するには、かなりの時間がかかるであろう。
香林坊にあるホテルのレストランで昼食を食べて、午後は、歴史関係の施設を見た。
金沢城公園から、西田家や野村家、それに寺島蔵人邸など、江戸時代の屋敷を見学したのだ。
古都金沢として、見ておくべき場所であろうと思ったのである。
そして、森川紗智子の心の奥に、時代小説を書こうかな、という気持ちが芽生えた。
もちろん、小説の業界で、時代小説が大きなウエイトを占めていることは十分に承知していた。
しかし、その読者は、すべて中年以上の男性である、と森川紗智子は考えていた。