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ハードボイルド

南関東文科大学 タイムカプセル発掘隊 第二話 教授選への「ダシコミ」(中)

   

「いや、本当にすまない」
 電話から三十分ほど経って、ようやく坂上が、松下たちの前に現れた。
 普段とは違い、グレーのスーツを着崩し、ネクタイも緩めている。
 頬から鼻の頭にかけての肌も、ほんのり赤くなっている。
「何をしているのかと思えば、お酒、飲まれていたんですね」
 坂上が車内に入ってきたところで、千夏が間髪いれずに、言外に非難を滲ませた物言いをした。
 恐らく、微量程度なのだろうが、たとえどんな僅かな酒量であったとしても、敏感な千夏の鼻をごまかすことはできない。
 坂上は、上体をくの字に折り曲げそうなほどに恐縮して、
「すまん。本当に申し訳ない。こちらの事情で、外せない用事ができてしまったのだ。本当に悪かった」
 と、何度も何度も謝罪を繰り返した。聞いている松下たちの心に響く、感情のこもった声である。
「いえいえ、良くあることですから、気にしないで下さい。ほら、片山もあまり攻撃的になるなって。何が解決するわけでもないだろう」
 いたたまれなくなった松下は、坂上をかばう形で話の流れを切った。
 そう、今大事なのは、「仕事」をつつがなく成功させることであって、間違っても、依頼者を責め立てることではない。
 第一、なかなか教授になることができなかった、そして、今唯一のチャンスを目前にしている坂上の立場からすれば、どんな急な酒席でも、職場に関係があれば一も二もなく参加して、上の人間の覚えをめでたくしておかなければならないところのはずだ。
「仕事」の前に酒を飲んでいたからといって、単純に不謹慎という結論には至れないだろう。

 

-ハードボイルド

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